1973年初出 つのだじろう
秋田書店チャンピオンコミックス 全9巻
おそらくつのだじろうの最高傑作ではないか、と。
悪霊にとり憑かれた少年の悪夢の日々を描いた心霊ホラーなわけですが、悪霊が未来の恐怖を予知する新聞を配達し、しかもそれを読めば100日づつ寿命が縮まる、としたプロットは他に類を見ない独自性を備えていたように思います。
怖いからこそ寿命が縮まっても読まずにはいられない、という相克する心理の描写は、ちょっと他の漫画では味わえぬ切迫したおぞましさでしたね。
相変わらずなにかを啓蒙しようとするような節があったりもするんですが、孤立無援で悪霊になすがまま惑わされ続ける主人公の境遇を毎回目の当たりにすると、それも瑣末事に思えてくるほど。
延々救いのないままひたすら命のカウントダウン、って、なんて漫画なんだ、と子供の頃は本当に嫌でしたね。
でも読んじゃうんだけど。
今週は助けがあるかも、なんて考えて。
唯一ひっかかったのはUFOまでオカルトの文脈で語られちゃってることなんですが、そこはまあ作者の主観であり、時代性であった、と解釈するしかないのかもしれません。
私がこれは凄まじい、と思ったのは終盤、主人公が悪霊との戦いに挑んだ後の展開。
さんざん苦しんだんだからなんとかしてあげてよー、と悲鳴をあげたくなるほどの冷酷さ、容赦のない作劇に仰天。
よくぞまあここまで突き放すもんだと。
また、その時点で物語が終わらないのにも驚かされました。
いったいなんの罪を犯したのか、と言いたくなるほどの悪夢的シナリオを経て、ラストシーンの着地点がこれかよ、って。
いやもう、ほんとひどいです。
あまたのホラー漫画の中でもここまで徹底的に貶められた主人公はまれだと思います。
それゆえ心霊という曖昧でとらえどころのない世界の底なしの恐怖を肌感覚で身近に感じさせた、というのはあったと思います。
絶望と慟哭の地獄絵図的オカルト万華鏡とでもいいたくなる一作。
あえて言おう、つのだじろうにしか描けぬ極北の名作だと。
ものすごく後味悪いけどね。