2022年初出 飴石
エンターブレインハルタコミックス 1巻(以降続巻)

大正末期、訳ありな連中ばかりが住む瀟洒な集合住宅、開花アパートメントの人間模様を描いたサスペンス風の耽美譚。
私は作者である飴石って人のプロフィールとか経歴とか全く知らないんですが、断言しよう、経歴とか関係なしにとんでもない力量です、この人。
もしこれで新人だ、というなら脅威の一言ですね。
あんまり天才とか、うかつに言いたくないんですが、言いたくなるレベルで漫画が上手いし、洗練されたテクニック、センスがある。
セリフ回しや作劇が圧倒的なのはもちろんのこと、私が一番驚いたのは第2話、渦中の女のワンシーン。
煽情的で耳に残る声を持つ、電話交換手の女の吹き出しの表現法に舌を巻きました。
漫画で音声をこういう形で表現するか、と。
手塚治虫のルードウィヒB以来の衝撃でしたね。
またこの人、艶めかしくも怪しい絵を描くのが本当にうまくて。
もし本気でホラーを描くようなことがあれば伊藤潤二にすら肉薄するのではあるまいか、と思います。
物語は一話完結形式で進んでいくんですが、ぶっちゃけね、内容はさほど濃くもなく、場合によっては他愛ないと言っていいものもいくつかあったりするんですよ。
それでも筆力だけで最後まで読ませてしまうんです、この人は。
いやはやすげえ漫画家が出てきたな、と。
どこか山田章博っぽいアプローチもあったりするのが温故知新って感じでもあって。
これは評価されるべき、と思うんですが、そのうえであえて唯一、懸念があるとすれば漫画の作法、文法が幾分少女漫画的なことですかね。
多分、一部の読者は「なんかよくわからない」って言うと思う。
さらに広く支持されるにはいくつかのマイナーチェンジが必要かと思うんですが、このまま孤高に我が道を行くのも間違いではないでしょう。
先が楽しみな漫画家ですね。
コアなファン層を築きそう。
若いころ読んでたら熱狂してた気がします。

