午後9時15分の演劇論

2020年初出 横山旬
エンターブレインビームコミックス 全3巻

美術大学の夜学に通う主人公が、初めて手掛ける舞台演出の戸惑いや葛藤を描いた青春群像劇。

通読して、あれっ?って感じでしたね。

これ本当に横山旬?って。

なんか毒が抜けたというか、騒的なキャラ回しからが抜け落ちたみたいな、というか。

横山作品には、なんか壊れてるというか、ぶっ飛んだ人がたくさん登場する印象だったんですけど、主人公も含め、誰も彼もがなぜかみな、まともでねえ。

この場合、まともというより時代に即した、と言ったほうが正しいのかもしれないですけど。

唯一、主人公のみが70年代的熱血を身の内に秘めてるんですけど、それすらも真正面から噴火することなく、周りの顔色や空気を伺いながらくすぶり続ける始末。

あらいぐマンの失態?が意識を変えたのかもしれないですけど、これね、ソフィストケイトされたといえば聞こえはいいですが、言葉を選ばずに言うなら没個性化に限りなく近いですからね。

予測できない言動をするキャラが一人もいないんですよ。

そりゃ、この方が若い世代の共感は得やすいかもしれない。

上手に枝葉を切り落として形は整ったのかもしれませんが、その分ね、野趣にも似た型破りな面白さが大きく後退してしまったような。

横山旬じゃなくても描けるだろ、っていうのが本音ですかね(というか、この題材なら作者よりもっとうまくやる人が割といると思う)。

あと、モラトリアムなキャンパスライフを描写したかったのかもしれませんが、結局のところ主人公はどうしたいわけ?ってのがいまいちはっきり見えてこないのも難。

こういうのってね、演劇の魔力というか、舞台に立つことの中毒性みたいな部分に焦点を当てるのも結構大事だと思うんですよ。

そういった「好き」の感情をすっ飛ばして、ただ素人演劇を俯瞰して解説するみたいな感じになっちゃってるのがね、テンション上がらない原因になってるというか。

絵解きっぽいんですよ。

うーん、もっと熱くなったはずなのに、どこか抑制しちゃったんですかね。

やはり作者はSFの想像性を物語に取り込んでこそ魅力を発揮、と確信しましたね。

SFは売れないんだろうけどさ。

次作に期待。

私が読みたいものとは残念ながらかなりズレてましたね。

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