アメリカ 2014
監督 ミヒャエル・R・ロスカム
原作 デニス・ルヘイン

ドロップと呼ばれるマフィアの表に出せない金を一時的に預かるバーを舞台にしたサスペンスで、原題もそのまま「the Drop」、それをなぜクライム・ヒートなどというジェイソン・ステイサム主演のアクション映画みたいな邦題にしちゃったのか、本当に私は理解に苦しむ。
売らんがためにしたって、方向性が間違ってる。
これ、トム・ハーディ大立ち回りの肉弾アクションでは、と勘違いして見た人、絶対居ると思います。
実際私がレンタルした店もアクションのコーナーにこの作品、置いてあった。
違うから。
もう、全然違いますから。
どちらかというとこれ、もうスリラーと言ってもいいのでは、と私は思ったぐらい。
とはいえそれも辛抱強く最後まで見た人にだけあたえられる特大の御褒美。
なぜか。
それはこの作品、特に中盤ぐらいまでは、犬を拾った男と、 現場に居合わせた女、マフィアに店を牛耳られてる冴えないバーテンダーの抑圧された日常がただ淡々と描写されるだけで、暴力の「ぼ」の字もなければスリルに満ちているわけでもないから、なんですね。
非常に抑えられた演出です。
ともすれば地味、と言ってしまいたくなるほどの。
ある意味、そこに完全に騙されてしまうわけでもありますが。
なんか間がね、アメリカ映画の間じゃないんですよね。
テンポよく、わかりやすくじゃなくて、一見無駄に思えるようなシーンですらじっくり丁寧に貼り合わせていくタイプ。
まあそれが後で全部意味を持ってくるんですけど。
どこかヨーロッパの映画っぽいなあ、と思って見てたら監督、ベルギーの人だった。
さもありなん。
クライムなヒートを期待してこの作品を手にとった人は下手すりゃ前半で振り落とされます。
なんかまどろっこしいなあ、と思った人もきっと居たはず。
ところがだ。
最後に待ち受けているのはすべてをひっくり返す仰天のオチだったりするんです、これが。
いやもう、正直震え上がった。
まさかこんな場所に物語を誘導するとは、と心底舌を巻いた。
何が凄いって、本当に怖いのは衝動的で頭のネジのゆるい小悪党でも理不尽なマフィアでもなく、躊躇なく一線を超えてしまえる人間のことだ、と全部映像で語りきったこと。
人の内側に潜む狂気を鮮やか過ぎるほどに浮き彫り。
これを怖い、といわずして他の何を怖いというのか、という話であって。
また、こんなのをオチにしてしまえるんだ、ちゃんと成立するんだ、と感じられたことがなによりの驚きでした。
ラストシーンの不穏さも半端じゃなし。
ここでぶった切るのかあ!とそのセンスにつくづく脱帽。
エンドロールが流れ出した瞬間、大きく息が肺から漏れたほど。
いやこれ、劇場未公開とは思えぬ傑作だと思います。
ラストに息を呑むサスペンス、驚愕のスリラー、みたいな売り方をしてたらもっと注目が集まったのでは、と返す返すも惜しまれる。
必見だと思います。
要注目の監督がまた1人現れた、と確信した次第。