アイアムアヒーロー

2009年初出 花沢健吾
小学館ビッグコミックスピリッツ 全22巻

いわゆる「ゾンビもの」の新たな可能性を模索した、といっていいと思います。

ジョージ・A・ロメロのゾンビ三部作(映画)を嚆矢とし、90年代以降、長い間途切れていたゾンビを題材とするホラーアクション(箸にも棒にもひっかからんB級ゾンビ映画は空白期間中もぽつぽつ発表されてましたけど)の系譜を、漫画にて受け継いだ、と言っても過言ではない。

時代の追い風もあったでしょう。

なぜだかわかりませんが、0年代後半ぐらいから急にゾンビものが息を吹き返したかのように量産されだしましたからね。

ウォーキング・デッド(米のゾンビものテレビドラマ)が11シーズンも続くだなんて、一昔前なら考えられなかった現象だと思いますし。

上手にブームに乗っかった、という印象はある。

文明社会が崩壊し、無政府状態に陥る日本で、主人公たちが数量的不利をなんとか知恵と工夫でサバイヴしていく展開も丁寧で現実味を損なわない出来だったと思いますし。

たいていのゾンビものって、世界が崩壊した後をあんまり描いてないんですよ(後発のウォーキング・デッドや、ここ10~15年の作品は違うが)。

国中がゾンビで埋め尽くされてエンドマーク、みたいなパターンが多くて。

あのロメロでさえ、無人島に逃げて終わりとか、スーパーマーケットに籠城で終わってますしね。

ああ、花沢健吾はスーパーマーケットに籠城したあとを描こうとしてる、と読んでて心躍りましたよ、私は(実際に籠城するエピソードがあったし)。

ようやく「謎の感染症でパンデミックで大変!死体が生き返って同族殺しの罪悪感で大弱り!」の次に行ってくれるのか、と。

実際ゾンビを、知恵のない愚鈍なでくのぼうから、未知の可能性を秘めた謎の生体として描こうとする試みがありましたし。

ひょっとして世界の大変革を、しいては生態系そのものの再編成をやらかそうとしてるのか作者は、とドキドキした。

それってもうSFですからね。

私の知る限りじゃそんなこと漫画でやったのは小室孝太郎のワースト(1970)か、神様手塚治虫の諸作ぐらいしかない。

伏線と思しき謎や、思わせぶりな展開もエンディングに期待を抱かせるには十分だった。

そしたら、だ。

最後の最後で丸投げですよ、あなた。

一切の謎解き、しいては物語を結ぼうとする形跡すらないときた。

広げた風呂敷をたたむ気配もないままエンドマーク。

お前はいったいどこのドラゴンヘッド(1994~)で凄ノ王なんだよ!と。

まさか花沢健吾がこんなことやるなんて思ってなかったんで、完全に虚をつかれた、というのはありましたね。

ここまでブームを巻き起こしておきながら、尻切れトンボとは・・・と愕然とした。

以降、今日に至るまで、要注意漫画家の一人です、作者。

多分、SFを描けないタイプの人なんだろうなあ、そういう漫画家、一定数居ますしね。

最近の読者は優しい人が多いんでね、ここからなにか意味を汲み取ろうとする人もおられるようですが、私に言わせるならこれはまとめきれなかった典型例です。

後に80ページを加筆した完全版が電子書籍で発売になったようですが、それをわざわざ金だして読んでやるほど私は親切じゃないんで。

傑作になる素地はふんだんにあったのに、最後の最後ですっ転んだ一作。

アメリカだったら暴動起こってるぞ!・・・・って、偏見ですかね、これ。

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