フランケンふらん

2006年初出 木々津克久
秋田書店チャンピオンRED 全8巻

この作品をどう説明すればいいのか、いささか悩む部分もあるんですが、あえて簡単にまとめちゃうなら「もし人造人間が現代の医学水準を超えた技術をもつ天才外科医だったら」を描いた、スプラッター風味のSFホラー、といったところですかね。

うーん、文章で説明すると「なんだそれ?」って感じだなあ。

ま、ともかく続きを書きますけど。

主人公の人造人間である斑木ふらん、なんせ人造人間ですんで道徳心やモラルが人間とは微妙にズレてます。

彼女を産み出した天才科学者、斑木直光をふらんは信奉していて、もてる技術の向上のため、もしくはなにか人の役立つのであれば善悪を超えて暴走しちゃう傾向がある。

これは斑木直光の、天才であるがゆえの孤高性、浮世離れした学究肌ぶりを踏襲してる、と考えるのがいいのかもしれない。

なぜか今はふらんの側にいない斑木直光に、いつの日か「よくやった」と言ってもらいたいがため、ふらんの腕を知る人達から依頼された事案に全力のオーバーテクノロジーでもって彼女は取り組むんですね。

それが毎回とんでもない結果をもたらす。

拒絶反応を抑えて他人同士をくっつけちゃうのなんてお茶の子さいさい、挙句の果てには獣人化に、クローン化、脳だけで生きられる生物に作りかえちゃうとか、神をも恐れぬ所業を次々とやらかしてしまう。

しかしまあ、よくぞこんなプロットを思いついたことだな、と。

一話完結形式なんですけどね、各話ともに、ブラックユーモアでは片付けられない毒満載、グロさと黒さが混ざり合って悪夢的悲喜劇の様相すら呈してるのに唖然とするというか。

それでいて決してとっつきにくいわけではなく、滅茶苦茶ぶりがちょっと可笑しかったりもするんで侮れない。

作者がすごかったのは、こんなありえない物語を、医学用語、専門知識を駆使してもっともらしさで染め上げ「ひょっとすると依頼を額面通り受け取ったふらんのほうが正しかったのではないか?」と思わせる、物事の本質に迫るドラマを構築していること。

人あらざる目線でしか気づき得ない文明人の矛盾に、はっ、とさせられたりするんですよね。

全61話を彩る多彩なアイディアにも感心。

感染症、進化、ロボットの義体に怪獣、仮面ライダーのパロディまで登場してくる始末。

これもう完全に本格SFじゃん!と唸らされる、思考実験を試してるような回もあって、ほんと何事か、って話。

フランを含め、それぞれのキャラクターが立っているのもお見事。

アドレアなんて存在そのものが仰天ですよ。

間違いなく0年代の大収穫、とイチオシする次第。

かの御大手塚治虫の名作、ブラックジャック(1973~)をそこはかとなく意識してる様子なのも心憎い(最終回なんて完全にオマージュですからね)。

この内容でブラックジャックってのもすごい話なんですけど、手塚先生がご存命なら絶対に敵愾心を燃やされたはずだ、と私は思ったりします。

これが話題にならない、あんまり売れてない、ってのは残念きわまりないですね。

エグいホラーに耐性のないのない人にとっては辛いものがあるかもしれませんが、便乗漫画やジャンル漫画でお茶を濁してる新人連中とは一線を画す傑作だと私は思います。

あと、なぜか単行本の表紙が毎回エロいんですけど、これトラップですんでご注意を。

売らんがための努力だと思うんですけどね、エッチなのかな、と思って読んだらとんでもない目にあいます。

まあ、ここまで私の文章を読んでくれた人ならそりゃそうだろうな、とご理解いただけるかとは思うんですが。

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