PLUTO

2003年初出 手塚治虫/浦沢直樹
小学館ビッグコミックス 全8巻

鉄腕アトム「地上最大のロボット」を浦沢直樹がリメイクした作品。

さて、浦沢直樹ファンの読者の内の一体何人が「地上最大のロボット」を読んでいるのか見当がつきませんが、まず私が言っておきたいのはアトムにおける「地上最大のロボット」の回って、決して後世に語り継がれるほど優れた出来ではないですよ、ということ。

むしろ低調と言ってもいい。

手塚先生らしくないんですよね。

熱心な手塚読者ならわかってもらえるかと思うんですが、先生、スランプっぽいな、って感じ。

周期的に凡作を量産する時期が先生にはあるんですが、ちょうどその頃とかぶっってたのかな?といった印象。

色んな意見があるだろうとは思いますが、先生は天下一武闘会最強決定戦みたいなことをやらない人だと思うんですね。

むしろそういう流れを否定して「強さ」とはなにか?を逆に問いかけるのが先生ですから。

編集部なり、周囲の人間の進言でもあったのかなあ、と私は勘ぐったりするんですが、どちらにせよカタルシスも感動も得にくい中途半端な仕上がりになっちゃったな、と当時は読んでて思った。

「地上最大のロボット」以上の出来を誇る回なんて、アトムにはいっぱいありますから。

なぜあえて「地上最大のロボット」?と私は疑問に思ったりもした。

アトムの読者ならこの回を選ぶことはまずないんじゃないか?と。

大勢の人がこの企画に関わってるんで、なんらかの戦略なり意図があったのかもしれませんが、個人的にはアトムが曲解されてしまうのでは、という不安が少なからずありましたね。

結果的にどう読者に捉えられたのかは、いまだはっきりと見えてこないんでわからないんですけど。

ただ、オリジナルのチョイスに関する疑問や懐疑を抜きにするなら、浦沢直樹の筆致は恐ろしく達者で見事というほかないものではありました。

なんせ50年近く前の作品ですから。

それを現代にも通用するよう焼き直す、なんてゼロからの創作よりも難事業だと思いますし。

ましてや相手はアトム、国民的漫画の伝説的存在です。

おかしな改変をやらかした日には古いファンから総スカンを食らうことは間違いない。

そこをね、中途半端にかわすわけでもなく、ぶっこわすわけでもなく、リスペクトを高々と掲げながら作者は新しいアトムを感動レベルで再構築してみせましたね。

過去の名作をリメイクするのが昨今の漫画業界では小さなブームになってますけど、他のどのリメイク作より抜きん出て高い水準にあることは確か。

すべてのキャラがちゃんと現代に通用するようアップデートされてるんですよね。

アトムが初登場するシーンなんて、あたしゃ手が震えましたもん。

あのトンガリ頭の海パンスタイルをどう描くんだろう、と思ってたら、こうきたか!みたいな。

ゲジヒトをストーリーのリード役としてお話を進めていくアレンジもうまいの一言。

大人の鑑賞に耐えうる、ってのはまさにこういうことだと。

少し残念だったのは、誰にもこんな風にはやれないと思わせる構成力、演出力を見せつけながら、エンディングがなんとなくしぼんでしまったような、都合よくまとめられてしまったような印象を抱かせることですが、まあ、仕方がないか、と。

オリジナルを無視せずにやる、ということならこれが限界だったかも知れませんね。

ずっと第一線で高い人気を保持し続けている作者の、一流の仕事が堪能できる一作だと思います。

好みはあるでしょうけど、手がつけられんぐらい老練だし、テクニカルだと私は思った。

決して熱心な浦沢ファンではない私ですが、これこそがプロの漫画だと舌を巻きました。

手塚ファンでなくとも手に取る価値は充分あるんじゃないでしょうか。

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