2018年初出 花沢健吾
講談社ヤンマガKC 1~8巻(以降続巻)
私にとっては前科持ちの漫画家なんで(アイアムアヒーローの件で)全く期待してなかった、というより、読むべきなのかなあ、と悩んだってのはあるんですけど、いざ手に取ってみたらそれほど悪くはなかったですね。
正直ね、今更ニンジャかよ、とは思ったんです。
21世紀にもなってまた伊賀野カバ丸(1979~)やさすがの猿飛(1980~)をやるの?と嘆息したのは事実。
もうなにも残ってないだろ、このジャンルには、とっくに涸れ井戸だろうがよ、と最初は思いましたしね、怪物山田風太郎じゃあるまいし。
なのに、思ってた以上に楽しく読める。
現代に忍者をよみがえらせるために、徹底してリアリズムや小道具にこだわった、というのもあるんでしょうが、なにより強い武器だったのは花沢健吾の作家性でしょうね。
なんかね、登場人物同士の他愛無い会話のやりとりや作劇の間に、独特のオフビートな笑いがあるんですよ。
いざとなれば殺人も辞さぬ非情な忍者の周辺にいるのが頭のゆるそうな風俗嬢やもてないオッサンという、主人公のかりそめの日常を演出するキャラたちがいい。
殺伐とした任務とのギャップが可笑しいんです。
びっくりするぐらいスリリングな展開に至らない(というか進行が遅い)んですけど、主人公と同じアパートの住人がグダグダやってるのを見てるだけでなんだか面白くてね。
ボーイズ・オン・ザ・ラン(2005~)の頃に比べたらうまくなったよなあ、何も起こらないのに楽しく読めるってすごいよなあ、と感心してたりもしたんですが、さすがにこのままダラダラ続けるわけにもいくまいとでも思ったのか、大きく「やらかしてしまった」のが8巻でして。
もう、一気に冷めましたね、私は。
ここからネタバレします、未読の方は読まないほうがいいです。
今回ばかりはネタバレする以外に書き進められないんで、すいません。
せっかく時間をかけて育てた主人公をね、あっけなく殺してしまうんですよ、作者は。
え、死んだと見せかけてあとから蘇るパターン?と勘ぐったりもしたんですが、巻末で主人公の兄弟たちがでしゃばってきたところをみると、どうやら本気で死んでしまったっぽい。
あー、こりゃ駄目だわ、と脱力。
未だかつて、主人公がくたばってもかわらぬ成功を収めた作品って、国内には存在しませんからね(カムイ伝みたいな群像劇は別として)。
いわば禁じ手。
夢オチと同等といっていいほど罪深い。
で、そんな禁じ手を漫画史に挑まんがばかりに逆手に取るほどの大天才だとは到底思えないわけですよ、作者。
熱心なファンが細々と支えてなんとか完結にまでこぎつけるのかも知れませんが、私はもういい、と思った。
この作品に、そこまでのテコ入れが必要なほどのスリルやサスペンスは求めてないし、そもそも私が魅力を感じていたのは主人公九郎のすっとぼけた存在感によるものが大きかったんで。
個人的にはアイアムアヒーローに続いて2度めの裏切りにあったな、って感じですね。
もう、新作を手にとることはないかもしれません。
この人は普通に現代劇やってるのが一番いいのかもしれんな、と思いましたね(・・・とか言いながら、後の巻で九郎が蘇ったりしてたら本当に嫌だな)。