ベルギー/フランス/ルクセンブルグ 2006
監督 ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
脚本 ファブリス・ドゥ・ヴェルツ、ロマン・プロタ
人里離れた山奥で、車が故障してしまったキャバレーシンガーを襲う恐怖を描いたスリラー。
しかし邦題「変態村」って・・・。
みんな言ってるんでしょうけど、もうね、発想が小学生レベルだ。
意図してニッチな層に訴えかけようとしたのかもしれませんけど、それにしたって安直すぎる。
というか、私がこの映画の監督だったら訴えてるね、間違いなく。
だって原題CALVAIRE(ゴルゴダの丘)ですよ?
180度別物じゃねえかよ。
こんな邦題つけちゃったら物好きなホラーファンぐらいしか反応しないだろうから、日本で正当な評価を得ることは相当難しい気がしますね。
実際私も長年スルーしてたもんなあ。
いや、クソつまらん安っぽいスプラッタームービーに違いない、と思ってたのよ。
違った。
全然違った(大事なのでここ太字で)。
辺境の村に暮らす人間の底しれぬ狂気を描いた悪夢的不条理劇だった。
いや、見始めて30分ぐらいは、正直侮ってたんです。
主人公、偶然宿を借りたジジイに「グロリア(ジジイの別れた妻)帰ってきたのか!」と無理矢理嫁の服を着せられて監禁されるんですけど、まあ、どこの田舎にも頭のネジがとんだジジイの一人や二人はいるわな、単にこのジジイから逃げ延びることでお話が終わっちゃったら嫌だなあ、などとのんびり構えたりしててですね。
男性に嫁の服を着せて喜んでるジジイがいるから「変態村」ってか、なめんなよ視聴者を、などと一人憤ったり。
そしたら、だ。
後半、物語は思いもよらぬ方向へと突き進んでゆく。
詳しくは書きませんが、私はすべてが「ジジイの譫妄」だと思い込んでいたんですけど、それがジジイの譫妄じゃなかったと目の当たりにすることになるんです。
アメリカンホラーなら、ジジイが狂える殺戮者として行為がエスカレートしていくはずなんで、先入観があったのかもしれませんが、この展開には正直慌てましたね。
俄然、意味がわからなくなってくる。
一体この村ではなにが起こっているのか?と。
主人公のいったい何がこの事態を引き起こしているんだ?と。
描かれているのは常識の一切通じない徹底的な断絶。
価値観の相違とか、隔離された地域性故の因習とか、そんなレベルじゃないんです。
もう、登場人物たちの見ているものが全く違う。
いや、これはね、マジで怖い。
抗する手段がないんですよ、いわば別の世界線に生きてる人間同士が接触したようなものだから。
ジジイの嫁の服を脱ぐ暇もなく、滑稽味満点の状態で逃げる主人公の姿がドラマに恐ろしく迫真性をもたらしてるのにも恐れ入った。
普通なら爆笑するしかないですよ、こんな絵、それが怖いんだから。
なるほど、ゴルゴダの丘か、と。
深掘りすれば幾通りもの解釈ができそう。
取り繕いようのない不理解を描いた予想外の秀作だと思いますね。
褒め過ぎかもしれないですけど、ミッドサマー(2019)と同等の評価を得てもいいぐらいじゃないでしょうか。
かえすがえすも邦題がもったいない。
むしろホラーファン以外に見てほしい映画ですね。
ベルギーの闇を覗いた気がしたよ、私は。
実際ベルギーにこんな村があるわけじゃないんだろうけど。