涙弾

1988年初出 小池一夫/伊賀和洋
集英社プレイボーイコミックス 全21巻

パリの並行警察出身の日本人、切葉弾の活躍を描いた刑事もの。

本作に限っては、小池一夫らしからぬ感じで主人公のキャラがあんまり濃くない、というか立ってない感じです。

というのも切葉弾、元々は普通の留学生なんですよね。

偶然パリで殺し屋の女と知り合ったことから並行警察入りしてますが、その警察ですらあとから「ど素人のお前をやとったのは囮になると思ったからだ」と言われる始末。

それが日本に赴任してきた途端、突然スーパーポリスになってる。

頭は切れるわ、推理力、観察力は尋常じゃないわ、体術に優れてるわで、いったいただの留学生が短期間のうちになにをやったんだ?って話で。

主人公が成長していく過程のエピソードが一切省かれてるものだから、切葉弾の人物像に全く説得力がないんです。

なんだかわからんが化けたのね、と思うしかない。

そういう状態で読み進めていってるものだから、事件関係者が哀しみのうちに命を散らしていこうが、切葉がそれを見て涙に暮れていようがあんまり共感できないわけで。

どこかね、事件を回していくための駒っぽいんですよね。

最終的に主人公はCIAの秘密捜査員にまで流れていくんですけど、キャラよりも事件に重きを置く傾向は変わらずで。

ひとつの事件を解決するのに5巻を消費するとかザラですから。

複雑に入り組んだ事件をじっくり解いていく醍醐味は確かにあるんですが、あんまりらしくない、といえばらしくない。

小池一夫の黄金パターン、女が主人公のために身を挺してバンバン死んでいく(何人かは死ぬんですけどね)からの脱却を図ろうとしていたのかもしれません。

ま、読者としちゃあハッタリとマッチョイズムで物語に強引な説得力をもたせる作家性を期待してる面もあるんで、若干拍子抜けな感触はありますね。

どっちかといえば薄味かもしれません。

小池一夫を期待しなければそれなりの読み応えはあると思うんですが、それが作者の意図するところと合致しているかどうかは不明。

熱心なファン向けではないかもしれません。

かといって新生面をアピールしているとも言い難いのがどうにもはがゆいところ。

ちなみに最終話も終わってるのか、終わってないのかよくわからない感じです。

ひとつの事件解決をもって完、となってますんで切葉がその後どうなったのか?とか、まるでわかりません。

人気が低迷してきての打ち切りだったのかもしれません。

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