望郷太郎

2019年初出 山田芳裕
講談社モーニングKC 1~6巻(以降続巻)

赴任先のイラクで大寒波に襲われ、崩壊していく文明社会を目の当たりにしたことから人工冬眠を決断、そして500年後、ふいに目覚めた男のユーラシア大陸縦断の旅を描いたSF巨編。

1巻を読んだ時点ではかなり興奮したんですよ。

久々にこの手のディストピアな未来SFがきた!と。

いつの時代かわからない未来(異世界)を描いたバトルファンタジーっぽい作品はたくさんありますけど、現在と地続きな近未来SFって、あんまりないように思うんで。

ましてや中東やロシアの情勢、地理、文化をも加味した社会派、となるとほぼない、といっていい。

故郷である日本を目指して、わずかばかりの希望にすがり徒歩で旅するというプロットもいい。

これは上手にやれば手塚先生の大傑作火の鳥にも肉薄するのでは・・・と期待は膨らむ一方。

2巻ぐらいまでは、相当ドキドキしながら読んでたことは間違いないです。

あれ?なんか違うな?と思い出したのは3巻ぐらいから。

なんか物語がね、小集団の成り立ちや、貨幣経済、村同士の諍いについて、大きくページを割くようになってきたんですよね。

主人公は文明の発達した過去から来てますから、小社会が成立していく過程において、知恵や知識を活かして上手に立ち回っていく、というストーリー進行がいつしかメインに。

いや、それがまるで面白くない、ってわけじゃないんですけど、私が期待していたのは「タイムマシンで原始社会にやってきた主人公が原始人に重宝される、奉りあげられる」物語ではなく、500年後の未来を想像力で彩る「まだ見ぬ物語」であって。

社会がゼロから少しづつ成熟していく過程を、再検証してる創作が読みたいわけじゃないんですよね。

というか500年も経過してるのに、普通に文明が再構築って、都合良すぎやしないか?とつい揚げ足を取りたくなったり。

人の手から離れてしまうと洒落にならんことになる施設や設備が結構あると思うが、それは大丈夫だった、ってことでいいのか?と。

500年で変わってしまったものも絶対あるはずでしょう?って。

まあ、至極現実に即しててモーニングらしい、といえばそうなんですけど。

作者は度胸星(2000~)で手痛い失敗(あまりに反響がなさすぎて打ち切り)をしてますから、同じ轍を踏みたくなかったのかもしれませんが、これは私の読みたかった未来の物語じゃない、と6巻まで追って頓挫。

SFは売れねえからなあ・・・・わかるんですよ、わかるんですけど、風呂敷の広げ方と内容に、私的には乖離を感じたものだからさ。

うーん、今、商業誌でやるにはこれがギリギリのラインなのかもしれんなあ。

これだったら度胸星の続き描いてくれよ、と思ったりもするんですけど、もはや同人誌ぐらいしか発表の場はないか。

長大な物語になりそうなんで、終盤で思わぬ展開が待ち受けてたりするのかもしれませんが、私はもういいかな。

余談ですが山田芳裕は相原コージのアシスタントかなんかやってたんですかね?

時々、すごく酷似してるな、と思う作画がある。

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