2013年初出 八十八良
エンターブレインビームコミックス 全7巻
老衰以外で人間が死ぬことのない世界を舞台に、蔓延するRDS(復活不全症)の謎を追う警察と、逃がし屋を名乗る地下組織の攻防を描いたSFアクション。
全人類のすべてが不死である世界、という設定はなかなか独特だったと思いますね。
優秀だったのは、寿命が来るまで何をしても死ねないのを逆手に取った、死が身近にある日常の演出。
死んでも自動的に復活するものだから、リフレッシュ感覚で誰もがみんな自死を選択するんですよね。
風邪を引いたら自死、怪我をしたら自死、ともうゾンビも真っ青の思い切りのよさ。
なぜ死が方便になってるのか?というと、死ぬことですべてがリセットされて健康体に戻れるから、なんです。
つまり、病院も薬も必要ない世界、というわけ。
しかし、この世界観で血なまぐさいアクションをやる、ってなかなかハードル高いぞ、と最初は思ったりもしましたね。
自ら設定したルールが足かせになりそうな気もしなくはなかったんですが「死なないがゆえの駆け引き」を作者は予想外に上手にコントロールしてて。
なるほど、そういう切り口でアクションを構築するのか、と唸らされることしきり。
「強い女」にこだわったことも功を奏していたように思います。
映画でも1ジャンルを成すほどですからね、強い女といえば。
それが何やら秘密を抱えてそう、とくればなおさら。
愛することがRDSに感染する結果になる、とした筋立てもうまい!と思いました。
もう、ほおっておいてもドラマが向こうからやってきますから。
いや、そりゃね、もちろん、ほおっておいたわけではないんでしょうけど。
そっちの方向性の愛憎渦巻くドラマだけを膨らませたのが6巻発売後になぜか本編を中断して描かれた不死の稜線(全3巻)なんでしょうけど、これ、普通に映画にできるレベルだな、と私は思いましたしね。
で、この手の漫画が陥る最悪のパターンがいわゆる異世界オチだったりするわけですが、それも作者は際どい線で回避してて。
平行世界とか、その手のありきたりを用いてはいるんですけど、そこからさらに上のステージに立ち、全体を俯瞰する目線で不死の謎を解き明かしているのに私は感心しましたね。
うわ、きっちりSFじゃん!みたいな。
この内容でビデオゲームっぽくならなかったのは特筆に値するように思います。
唯一、残念だったのは、7巻で急にねじを巻かれたかのように慌てて風呂敷をたたみだしたことなんですけど、これは編集部の意向もあったんでしょうかね?
まだまだ膨らませることができた物語だと思いますし、結末を急いだことで剣崎と風鈴の関係性、ママの得体のしれなさがダンピングされちゃったように私は感じたんですが、うーん、どうなんだろ、計画どうりなんでしょうかね?
まだまだ雁金の凶行、狼藉ぶりが読みたかったりはするんですけど、人気との兼ね合いもあったのかもしれません。
どうあれ、近年のSFアクション漫画の中では出色の出来だったと思います。
ラブコメを得意とする作者の長所も存分に生かされた秀作だと思いますね。