屋敷女

フランス 2007
監督 ジュリアン・モーリー、アレクサンドル・バスティロ
脚本 アレクサンドル・バスティロ

交通事故で夫を亡くしたばかりの身重な女の家に、突然現れた謎の女の凶行を描いたスプラッターホラー。

恥ずかしながら私、この伝説のゴア映画をノーチェックでスルーしておりまして。

ホラー好きとしてはあるまじき所業、なんだお前、エセマニアなんじゃねえの?と言われても否定できないところではあるんですが、この映画ってね、色々私生活が大変なことになってた時期(個人的には空白の10年と呼んでいる。どうでもいいってか。すまん)に発表された作品でね、正直それどころじゃなかったんだ、許してくれ。

誰に謝ってるんだ、俺。

なぜか2021年7月に無修正版が全国ロードショーされるとの概報にて、ようやくその存在を知り得た次第。

ま、ひとつ言えるのは、ホラー映画の残虐描写でボカシが入るって、よっぽどだ、ってことですよ。

卑猥だからとか、陰部が丸出しだったとか、そういう理由じゃないんだから。

私が見たのは修正の入ったバージョンなんですけどね、映倫を恐れて関係者が自主規制したのも納得できなくはないですね(作品に部外者が手を加えるな!とも思うけどね)。

いやーえぐい。

ゾンビ映画みながらミートスパゲッテイを食える私でもこれはえぐいと思う。

もう、物語の半分以上が、理不尽な暴力の伴う血まみれの地獄絵図ですから。

で、その挙げ句に迎えるボカシの入った肝心のシーンなんですけど、これ、行為そのものより、どういう状況の女に何をしたか、という奇異なるシチュエーションの怖さが半端ないんですよね。

はうっ、と小さく悲鳴が漏れたよ、マジな話。

しかしベアトリス・ダルはよくぞこの配役を引き受けたことよな、と思いますね。

私はベティ・ブルー(1986)しか知らない(記憶に残ってない)んだけど、こんな役演じちゃったら一生つきまとう気がしますね。

子供はベアトリスを見ただけで泣き出すんじゃねえか?と思えるほど。

ま、子供はこんな映画見ないだろうし、見れないだろうけど。

シナリオ自体は至極シンプルで、最後まで見ても「ああ、そういうことだったのか」と納得するだけで、たいした種明かしもなかったりはするんですけどね、この映画がすごかったのは、残虐描写もさることながら、全編に漂う「理解の及ばぬ狂気の演出」にある、と言っていいでしょう。

何を考えてるのか全然わからんのですよ、襲撃者。

そ、そこまで恨まれるようなことを何かしましたか私(泣)?と思わず敬語になってしまうほどに怖い。

オチがシンプルであるがゆえに秘めたる妄執がかえって際立つ、とも言えるかもしれません。

しかも計画性がないんですよ、襲撃者。

大ぶりのハサミだけを手に持って自宅に訪れてくる。

いやいやそれじゃ返り討ちにあっちゃうでしょ、と冷静に考える余裕すらないぐらい思いつめてるわけです。

はっきり言って、ナタ持った大男や鉤爪のおっさんの10倍は恐ろしいですよ、こんなの。

私なら間違いなく泣いて土下座する(そして最初に殺られてしまうわけだ)。

そして、さらに強烈だったのは、阿鼻叫喚の惨殺劇を経て、寒気のするような絵画的ラストシーンを監督が最後に用意してたこと。

間違いなく壊れてます。

ファナティックで病的で虚妄に囚われてる。

しかしながらこれが、どこかイコンのような聖性をまとっていたりするんですよね。

私は常々、ホラーを突き詰めていくと最後には美に到達する(頭がおかしくてすまん)、と思ってたりするんですが、もしかしたらそれを体現してみせたのがこの作品かも、という気が今してます。

伝説のフレンチホラーの看板に偽りなし。

コアなホラーファンにしかおすすめしないけど、0年代3本の指に数えられる傑作だと思いますね。

ちなみに今夏公開される無修正版ですが私は見ません。

ホラー好きとか言いながら、実は小心者なちょー怖がりなんじゃねえのか俺?と自らの存在証明がゆらぎそうだからだっ。

タイトルとURLをコピーしました