アメリカ 2018
監督 ライアン・プロウズ
脚本 ティム・カイロ、ジェイク・ギブソン、シェイ・オグボンナ、ライアン・プロウズ、マクスウェル・マイケル・タウソン
一言で説明しちゃうならパルプ・フィクション(1994)ですね。
多彩な登場人物が章立てされた物語の中で縦横無尽に動き回り、やがて点が線となり、最後には全部がつながってくるというストーリー進行。
しかしまー、ぶっ壊れた連中しか登場しません。
偉大なルチャドールであった父親の二世として産まれたが、小柄であったがためレスラーとして大成しなかったモンストロ、元売春婦でヤク中のケイリー、臓器売買に手を染める悪党テディ、テディの金を着服した会計士、ケイリーを捨てた元アル中の母クリスタル、顔面に鉤十字の入れ墨を入れたバカ、ランディ、どいつもこいつもまともなやつは居ねえのかよ!と呆れるぐらい脛に傷持つ連中の大集合。
でもこれが偽ざる現実なのかも、とちょっと思ったり。
なんせ舞台はアメリカとメキシコの国境近くにある街。
治安、とんでもないことになってます。
街の警察も腐敗してます。
まともなことをやってちゃ到底生きていけない。
ボーダーライン(2015)をご覧になった方なら腑に落ちることだろう、と思うんですけどね。
で、なんといっても良く出来てたのはシナリオ構成でしょうね。
時間軸を行きつ戻りつしながら同じ場面を違う目線から描き、ひとつのシーンに多面的な意味合いをもたせる手口はとても監督デビュー作とは思えぬ練られたものでした。
いちいち膝を打つ展開があるんです。
なるほど、そういうことだったのか、みたいな。
拡散的に見えて、実は余計なことを一切やってない。
5人で書いたシナリオを1本にまとめ上げたらしいんですが、時間をかけて推敲を重ねた形跡が見て取れる。
それぞれのキャラクターが薄っぺらじゃないのもいい。
ちゃんと各登場人物の背景までしっかり構築してあるんですよね。
特に落ちこぼれレスラーのモンストロは出色のキャラ。
いきなり覆面で登場ですよ。
リングにあがってるわけじゃないのに、ずっと覆面を脱がないんだ、こいつがまた。
絵面だけで強烈なインパクト。
しかも言ってることはほとんど宗教の部類だし。
笑わせたいのか、と思ったりもしたんですが、ところがどうしてこのモンストロが終盤に至って大活躍をする。
この作品がパルプ・フィクションのようでありながら微妙に違ったのは、クライマックスにおいて、あたかもモンストロを覚醒させたかのような壮絶なドラマを用意してのけた点でしょうね。
まさかこんな落とし所が待ってるとは、とびっくり。
自分でもえっ、と思ったんですが、ちょっと目頭が熱くなりかけたりもしたよ、私は。
また、モンストロと同時にクリスタルとケイリー、さらにはランディにまで、それまでの人生を精算するかのような着地点を最後に見出しているのが素晴らしい。
低予算映画ですんでね、チープに見えるところがあったりしますし、なぜかグロ寸前のスプラッターなシーンがあったりと、難点がないわけじゃないんですが、ここまでの群像劇を見せつけられたら文句も引っ込みますね。
胸打たれました。
タランティーノが絶賛したのも納得です。
クライム・アクション風ながら、物語の濃度は一線級にも引けをとらないといっていいんじゃないでしょうか。
『レガシーを信じろ』
見終わったらきっとあなたもいいたくなるはず。