私は死にたくない

アメリカ 1958
監督 ロバート・ワイズ
脚本 ネルソン・ギディング、ドン・マンキウィッツ

実在した死刑囚、バーバラ・グレアムをモデルとした社会派サスペンス。

実は私、この映画が実話ベースだったとはまるで知らずに手にとってまして。

おお、名匠ロバート・ワイズの作品が新たにDVD化されてる、こりゃ見なきゃ、ってな按配で。

どうやら濡れ衣着せられて収監された女が警察や司直と対立するドラマっぽいけど、そりゃハリウッド映画だから、きっと胸のすくような大逆転劇が最後には待ち構えてるんだろうな・・・などとのんびり構えてた。

そしたらだ。

なんだか妙にリアルというか、まるで浮ついてない感じで。

あれこれ紆余曲折あるのかな、と思いきや、中盤で早々と主人公の女は監獄行き。

慎重な審議を重ねることもなく、気がつきゃあれよあれよと死刑判決。

親身になって味方をしてくれる人とか、誰も居ないんですよ。

唯一の協力者は新聞記者のモンゴメリーだけ。

というのもですね、主人公バーバラ、前科持ちで保護観察中の身分、幼い頃から素行が悪く、現在進行形で全く更生できてない女で、夫も含め周りにはろくでもない連中しか居やしない境遇にあって。

強盗殺人の実行犯が、彼女も手を下したと偽証したことで逮捕されてしまうんですが、なんせこれまでの行いが行いだから「私は知らない!」と言っても誰も信じてくれない。

世論も含め、関係者全員が「あの女がやったに違いない」と決めてかかってるんですよね。

後半1時間のシナリオ展開は、僅かな希望と底なしの絶望が交互に襲い来る、迫真の作劇です。

生殺し、とはまさにこのこと。

だからどうなるんだよ、逆転はあるのか、ないのか、どっちなんだ!とやきもきすることこの上ない。

ガス室に呼び出される寸前まで行って突然「延期になった」とか、観客を弄んでるのか!と言いたくなるような場面もいくつかあって。

微に入り細に入り死刑執行の段取りや監獄内の様子、そのシステムを描写するものだからやたら臨場感があったことは確かで。

これは相当綿密な取材を重ねてるな、というのが手に取るようにわかる作り込みなんです。

またバーバラを演じたスーザン・ヘイワードが、はすっぱな女の気持ちの浮き沈みを絶妙に演じてまして。

死を目前にしてこの女心はなんなんだ、と唸らされるシーンもあったり。

全編を通じて描かれてるのは「冤罪はいかにして形成されるのか」に他なりません。

なんせ1958年の映画ですんでね、さすがに古びて感じられる部分もあるだろうな、と私は思ってたんですが、驚いたことに今と大して変わってなかったりするんですよね、これが(そりゃ法の整備は進んでますけど)。

確たる証拠や論拠もなしに、一方的な先入観と思い込みで見ず知らずの他人を悪人扱いするネットの薄気味悪さを振り返るなら、状況はよりひどくなってる、と言えるかもしれない。

さて、ラストシーン、バーバラはどうなったのか。

社会に垂れ込める多数派と言う名の勝手な憶測、マスコミが意図的に貼り付けるレッテルって、ほんと怖い、とだけ。

しかしこの内容で劇伴が主にジャズ、ってのもすごいセンスだなあ、と思います。

あれこれ脚色はあるんだろうなあ、と思いますが、経験則や社会通念上の色眼鏡で罪をでっち上げる怖さを気づかせてくれる一作ではないでしょうか。

邦題がちょっとアレだけど、文句なし力作。

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