アメリカ/イギリス 2006
監督 アルフォンソ・キュアロン
原作 P・D・ジェームス
全人類が生殖能力を失い、子供が一切産まれなくなった未来社会を描いたSF大作。
物語自体はシンプルです。
種の存亡の淵に立たされ、荒廃、混乱する世界で、なんの偶然か、1人の黒人女性が奇跡的に子供を身ごもる。
過去の縁で妊婦に頼られる羽目になった主人公セオは、否応なく妊婦を巡る騒動に巻き込まれることになるが・・・ってなストーリー。
おおむね主筋となるのはテロ組織からも政府組織からも狙われる中、いかにして単なる一官僚にしかすぎないセオが妊婦を守って安全な場所まで彼女を送り届けるか、なんですが、なんせ連れ合いは身重なものですから、死線をかいくぐるにしてもその緊張感たるや半端じゃなし。
護送車に揺られる最中、陣痛に襲われるシーン及びその後の展開なんて白眉でしょうね。
また細かい場面作りがやたらうまいんです。
テロ組織からの脱走を試みるも車が動かない。
やむなく車が坂道を下る惰性に任せて逃げ出すが、後を追う兵士達の駆ける速度とそんなにかわらない。
追いつかれるのか、逃げ切れるのか。
普通にエンジンかかりました、でかまわないようなシーンですらちゃんと盛り上げるための工夫があるんですね。
前半の、突然の襲撃から延々バックで逃げるシーンにしたってそう。
あえてUターンさせない。
しないことで、いかに対応に余裕がないかが観客に伝わる仕組みになってる。
で、それら数々の仕掛けがすべてクライマックスに辿り着くためのお膳立てにすぎない、ってのがまた実にお見事で。
描かれているのは無防備にその身を世界にさらす小さな命に、大人は何を見るのか、って事。
物語の設定上、そりゃそうなるだろう、と辛辣に評する人も居るかもしれませんが、血煙舞い上がる戦場で兵士全員がとった行動はそのギャップゆえ、心揺さぶるものがあったように思います。
あと、この作品を語る上で、やはりエマニュエル・ルベツキのカメラワークに言及しないわけにはいかない。
8分間ノーカットですべてを追った、目を疑うような終盤の戦闘シーンの凄まじさもさることながら、前半の車とオートバイの追走シーンもどうやって撮ったんだ、と仰天するような驚きの完成度。
極端な話、物語を脇においてすら見る価値は充分あるように思います。
過剰に煽らず、べたつかない演出を貫いてますんで、泣けそうで泣けなかった、と言う人も以外と多いかもしれませんが、私は逆に泣かせようと躍起になってないスマートさに好感を持った。
普通に英国で撮影してるだけなのに未来社会の出来事としか思えない映像も素晴らしい。
必見でしょう。
コメント
[…] 誰だこれ撮影してるのは、と調べたらトゥモロー・ワールドで私を仰天させたエマニュエル・ルベツキだった。 […]