トロール・ハンター

2010 ノルウェー
監督、脚本 アンドレ・ウーヴレダル

ノルウェーの森に人知れず生息するUMA「トロール」を、政府機関の依頼を受け、民間から隠し通そうとするハンターの秘密裏な行動を追ったモンスターパニック映画。

圧倒的にうまい、と思ったのは偶然に居合わせた学生の記録映像として、ドキュメンタリータッチでこの作品が撮られていること。

いわゆるブレア・ウィッチ・プロジェクト(1999)とか、クローバーフィールド(2008)と同じやり口のPOV映画なわけですが、実は私、どちらかというとPOV(一人称視点)って、あんまり好きじゃないんですよね。

手持ちのハンディカメラ(今はスマホか)で映像がぶれまくるのが疲れるし、物語の当事者がカメラを回すというお約束な実効性に、どうしても嘘くささを感じてしまって。

ブレアもクローバーもそうでしたけど、命の危険が間近に迫ってるというのにカメラを手放さないやつがいるか?とどうしても思っちゃう。

戦場カメラマンやユーチューバーじゃねえんだから、そこまで映像に執着する理由がないだろうと。

作品としては、危機的状況であればあるほど映像がなけりゃ話にならないんで、多少の違和感には目をつぶってでも「それでも本人はカメラを回し続けた」ってことにしたいんでしょうけど、私の場合、高揚する気分とは裏腹に、いや、死ぬかもしれんのにありえないだろ、と急速に冷めてしまうことがほとんで。

現実味を増すための手法であるはずが、逆に「作り物感」を助長してるような気がして仕方がなかったんですよね。

だったらなぜ、この作品に限ってはPOVであることを礼賛してるの?って話なんですけど、微妙な差異ながら、この映画に関しては「当事者がカメラを持っていない」という設定が前置きとしてあって。

カメラを持っているのはトロールハンターであるハンスではなく、ハンスに無理矢理同行を申し出た学生たちなんです。

つまり、そこに一人称視点ながら、第三者の視点が発生するという客観性が生まれる。

しかも学生の記録映像は学校の課題。

なんとかそれなりに仕上げないことには、あとあと困ったことになる。

多少の危険や無茶を犯しててでも決定的瞬間を撮らないことには、誰も見向きしてくれないことは言わずもがな。

起こったことすべてをカメラにおさめようとする積極的能動性に無理がないんですよね。

そりゃね、エンターティメント映画ですから、さすがにこれはちょっと勇気ありすぎるだろ、と思えるような場面や、安っぽさを感じるシーンはいくつかありますけど、前提がしっかりしてるんで、大きく緊張感がそがれることはなく。

POVを楽しむ上での安心感があるんですよね。

ドキュメントならではのリアリズムの構築とはまさにこういう手口のことを言うんであって。

だいたいね、いくら北欧の山奥だからって、トロールみたいなおサルの化け物風の怪物が跋扈してるわきゃないんですよ。

google earthの立場はどうなるんだ、って。

隠し通せる、と思うやつの方が頭おかしい。

なのに、だ。

見始めて30分、私は確信した。

トロール居るよ、ノルウェーに。

トロールハンターも居るよ、間違いなく。

これをPOVの成功例と言わずして、他になんというのかって話だ。

はっきりいって、物語はどんどんありえない方向へとエスカレートしていくんですけど、それが怪獣映画にも似た高揚感を従えてたまま失速しないという驚異の舵取りを見せつけてまして。

物語終盤なんて、もう多少の齟齬や矛盾とかどうでもいいと思えてくる迫真の討伐劇で。

いやもう、お腹いっぱいでした。

存在するはずがないものを、あたかも存在しているようにみせかけ、しかも最後まで飽きさせないという監督の力量には唸らされんばかりでしたね。

あまたの冴えないホラー映画やパニック映画が参考にすべき点は大量にあると思います。

さすがはジェーンドゥの解剖(2016)を撮った監督の作品なだけはある。

個人的には現時点でのアンドレ・ヴーヴレダル最高傑作。

つーか、ごく初期にこんな映画形にしちゃったら、もう超えられないぞ、と思ったりもしました。

先入観や偏見を抜きにして素直にライドしたらどこまでも盛り上げてくれるおすすめの一作。

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