チェイサー

韓国 2008
監督 ナ・ホンジン
脚本 ナ・ホンジン、イ・シンホ、ホン・ウォンチャン

チェイサー

デリヘルを経営する元刑事の、連続殺人犯追走劇を描いたハードボイルドなサスペンス。

いやーもう、文句なしに面白いです。

どこか70年代の日本映画っぽい雰囲気はありますが、ドラマ作りのうまさが頭ひとつ抜けてる、と私は感じました。

やっぱりね、世代のせいもあってか、この手の「ろくでもないことしかやってないクズが何の見返りもないのに体を張って小さな優しさを垣間見せる」映画ってね、もうダメなんですよ、私は。

ハートをまるごと鷲掴みにされる。

お前そんなキャラじゃないだろう、って思わずつっこみたくなるギャップそのものが目頭にくるわけです。

はっきりいって主人公、とても元刑事とは思えない性悪な女衒です。

高熱でうなされてる女を職場に引きずりだして仕事させるようなクソ野郎です。

でも自分のところの女の子がどうやらシリアルキラーに捕まったらしい、と気づくと、警察を向こうにまわして七面六臂な大活躍をしだすんですね。

監督がうまかったのは、主人公を全くの孤立無援として描いたこと。

殺人犯、一旦警察に捕まったりもするんですが、証拠不十分だったり、上層部の思惑が絡んだりで釈放されてしまうんです。

挙句には警察官でもないのに容疑者に暴力をふるったとの理由で、警察は主人公を逮捕しようとする始末。

かつての上司は言います。

「もう女の子は死んでるって、あきらめろ」

主人公は言い放ちます。

「なんでそんなことがあんたにわかるんだ」

元刑事、かつての同僚に追われながらも頑として犯人の潜伏先を探すことをあきらめない。

かつての刑事魂に火がついたのか、それともなけなしの義侠心にかられたのか、それはわかりません。

なにかに追い立てられるように、ボロボロになりながらも必死で女の子を探すんですね。

これに胸が熱くならないはずもなく。

たどり着きそうでたどり着かない「引き」の巧妙さも見事。

たった数百メートルの距離にまで近づいているのにどうしても監禁場所が特定できない。

どこまでやきもきさせるんだ!と思わずぼやきながらも、ひりつくような緊張感に画面から目がはなせない。

そうこうしている内に女の子の子供を偶然預かる羽目になったり。

またそれがドラマを演出する上で主人公の人物像を掘り下げる役割を果たしていたりもするんだから舌を巻く。

どうしようもない人間にだって「どうしても譲れぬ矜持」があり、すべからく同じならず者というわけではないのだ、と高らかに謳い上げた傑作だと思います。

作品の放つ熱量が半端じゃないですね。

愛だの恋だのを不用意に持ち込まないのも気に入った。

幾分雑に感じられる点もないわけじゃないですが、ここまでやってくれたら文句はないです。

決して目新しい題材だというわけでもないのに125分を見せきった監督の手腕を私は評価したいですね。

圧巻。

同じキャラで続編が見たい、と思いすらしました。

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