恐怖に襲われた街

フランス 1975
監督、脚本 アンリ・ヴェルヌイユ

ジャン=ポール・ベルモンドの代表作を一気に上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」が2020年10月から開催されてたみたいなんですが、上映作のひとつにカウントされてたんで手にとってみた作品。

ベルモンドというと私は勝手にしやがれ(1959)しか知らなくて、てっきりヌーヴェルバーグの人だと思ってたんですけど、実はアクションスターとしての顔もあって、一時期はアラン・ドロンさえも凌ぐ人気だったとか。

スタント無しで危険なアクションを演じる元祖、みんなが影響を受けた、みたいな評価が踊ってたりもするんで、そりゃ見てみなきゃならんな、と。

わざわざ再上映されるからには、なにか色褪せぬ魅力があるはずですしね。

で、本作なんですけど、早い話が刑事ものです。

フランス版、ダーティ・ハリー(1971)と呼ばれたりもしてたみたいですが、まさに言い得て妙。

組織に埋没しないはみ出し刑事が活躍するストーリーは、どこか似たものがある。

ただね、私がハードル上げすぎちゃったせいもせいもあるんですけど、ダーティ・ハリーに比べたら随分杜撰というか、ゆるい印象を受けるのは確かです。

女性ばかりを付け狙う連続殺人鬼の凶行を食い止めようとする、主人公刑事ルテリエの活躍が主に描かれてるんですけど、途中で別の事件に脇見してみたり、余計なエピソードに尺を割いていたりと、シナリオが散漫。

そのくせ、肝心な犯人の人物像は全く掘り下げてくれないんですよね。

時代性もあるんでしょうけど、義眼の精神病者で全部片付けちゃったら駄目だろうと。

今だったら間違いなくコンプライアンスにひっかかるな、と思わなくもないんですが、外見の不気味さと先入観丸出しの決めつけだけで「悪いやつ」認定されてしまっちゃあ、一連の事件の道筋にまるで見通しがきかなくなる。

結局、いきあたりばったりの犯行なのか?と。

ルテリエはなにか嗅ぎつけてるみたいなんですけど、それがなんなのか、観客に全く伝わってこないんですよね。

なのでなぜ事件を食い止めるに至ったのか、その因果関係が「偶然以上のなにかがあったか?これ?」と頭をかしげる羽目になる。

さらにひどかったのが犯人の正体がルテリエに知れる場面でして。

僅かな情報と小さな違和感だけでなぜそこまで確信できる?と驚いてしまうほどの疑念のなさなんです。

いやこれ、間違ってたらどうするつもりなんだ、とこっちが心配になってくるほど。

私は監督、脚本を担当したアンリ・ヴェルヌイユって人をよく知らないんですけど、はっきり言ってサスペンス向いてないです。

ロジックを積み上げていくこともできなければ、猟奇的スリルを演出することもできない。

見進めていくにつれてだんだんね、こんなバカを捕まえられない警察の方がどうにかしてる、という気になってくるんですよね。

こいつ、無計画に証拠残しまくってやしないかと。

唯一、すごかったのは、やはりベルモンドのアクションでしょうね。

アパルトマン(高層)の屋根を革靴はいたまま犯人追跡するシーンは脇の下にじっとりと汗が流れた。

いやもう、滑らないわけがないんだから。

私は過去の経験上知ってるけど、ひとつ間違えたらほんと簡単に滑落するから、屋根って。

命綱つけてると思うんですけど、それにしたって怖すぎ。

こんなの昔の香港映画ぐらいしかやらねえぞ、とマジで思った。

ヘリに宙吊りになるシーンも同様。

宙吊りからそれ!?と目が点になった。

そういう意味では再評価を裏切らぬ命知らずぶりでしたね。

なるほどアクションスターとして名を馳せただけのことはある、と納得。

あと数本見てみようかな、と思ってます。

映画としての出来はとても褒められたものじゃなかったですけど、ベルモンドのゴダール作品とは違う顔、凄みは実感できたんで。

しかしフランス映画にもこんなジャーロみたいな作品があったんだなあ、というのは発見でしたけどね。

余談ですが、血糊が大変なことになってます。

えっ、絵の具?

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