スウェーデン/デンマーク 2019
監督、脚本 ヨハネス・ニホーム
ある不幸な事故のせいで、良好だった関係に亀裂が入ってしまった夫婦を突如襲う「謎の襲撃者」を描いたタイムループ・スリラー。
似たような映画で最近じゃハッピー・デス・ディ(2017)なんてのがありましたけど、やってることはほぼ同じです。
夫の目覚めと同時に襲撃者は襲ってきて、夫が死ぬことで時間がループする仕掛けになってるんで、なんとかこの時間の牢獄を抜け出さないと永遠に殺され続ける悪夢が続く、というわけ。
かつては「タイムループもの」というと、大抵が恋人の危機を救う等、ラブコメディ調のものがほとんどでしたけど、それをあえてスラッシャームービーに落とし込んだのがミソというか、最近の流行りなんでしょうかね。
どうあれ、ハッピー・デス・ディが実によくできたスリラーで、まだまだ記憶も新しいがゆえに、どこか二番煎じな印象は拭えません。
まあ、結局はどう落とすかだよなあ、みたいな感じで冷めた目線だったことは確か。
ただね、この映画の監督っていつも心はジャイアント(2016)を撮ったヨハネス・ニホームなんですよね。
ここ数年で、恥ずかしながら声を上げて泣いた映画って、この作品ぐらいでして。
あのヨハネス・ニホームが、三文SFさながらに流行りをなぞるような真似をするはずがなかろう、と。
そしたら、だ。
もうほんとに最後の最後ですよ。
ラストシーン数秒で見事監督はやらかしてくれましたね。
「そういうことだったのか!」と激しく膝を打つ私。
もう、頭の中は終盤までの流れを回想する脳の過活動でシナプスが焦げつきそうな状態。
はっきりいって「実はこういうことだったんだよ・・」とすべての謎があかされるパターンではありません。
むしろ、かえって混乱する人もきっと居たことでしょうでしょう。
けどね、これが素晴らしく「腑に落ちる」んです。
語らずともすべてを悟らせる、とはまさにこのこと。
その上であえてひとつづつ検証していくなら、シナリオの小さな違和感やカメラワークの妙がすべて意味を持ってくる。
詳しくは書けませんが、鍵となるのは「誰がこの惨殺劇を注視していたのか」そして「二人の諍いを最も止めたかったのは誰か」でしょうね。
大枠でくくるなら実は「虐殺を回避するタイムループもの」ではなくて「哀しみの実存に切り込むファンタジー」になると思います。
私なんざ、カメラの向こう側にある登場人物の顔が浮かんで見えたほど。
で、すごかったのは、スリラーなはずなのに、見終わって感動的だと思えたこと。
いや、素晴らしい。
文句なし、傑作。
どちらかというと小品かと思いますが、こういう形でタイムループを流用しようとした発想に脱帽です。
やっぱり只者ではないな、ヨハネス・ニホーム。
作中で流れるココディ・ココダのメロディ(フランス民謡らしいけど)が耳から離れなくなります。
余談ですが夫がパン一で逃げようとするシーンも必死すぎてなんか印象に残るぞ。
多分、笑わせたかったわけじゃないと思うんだけど。