1993年初出 小田ひで次
エンターブレインビームコミックス 上、下巻
どこか風変わりな少年、カッちゃんの身の上に起こった奇妙な現象を描くSFファンタジー。
タイトルが「拡散」なわけですけど、これ、読んでそのまま主人公カッちゃんに起こった物理現象を指し示してまして。
なんの予兆も前触れもなく、カッちゃん、大気中に肉体が拡散してしまうんですね。
どういう理屈でそうなっちゃうのか、詳しい考察はなされてません。
なんだかわからんが、突然カッちゃんは大気中に肉体を粒子化させて溶け込んでしまう。
で、ふと気づいたら、遠い砂漠の町に一人実体化、でぽつんと立ってたりする。
カッちゃん、社会に馴染めず、いつも悩んでる風です。
今なら発達障害だと診断されそうな奇行を繰り返していたりもする。
そんなカッちゃんが拡散と実体化を繰り返すことによって、各地の色んな人達に触れ、たくさんのことを学んでいくお話なんですけど、どこかロードムービーっぽい質感もあって。
辿り着く先は見えないんだけど、あてない旅がカッちゃんに電車道でない様々な物事の捉え方を示唆する、みたいな。
過分に抽象的で内省的な側面もあるんで、わかりにくかったりはするんですけど、やってることは「カッちゃん漫遊記、ぶらり女食い日記」みたいになってなくもありません。
なんだか知らねどあちこちでやたらもてるんですね、カッちゃん。
おそらく作者がやりたかったのは、誰もが同じスピードで変化を受けいれられるわけではなく、大人になることが少年からの脱皮というわけでもない、と語りかけることだったのでは、と思うんですが、はっきり言って伝わりにくいです。
SF的な設定と、文芸っぽい語り口があんまり馴染んでない気もするんですよね。
物語がSFの文脈を上手に使い回せてないような気もする。
恐ろしく描きこみの細かい精緻な絵柄は個性的だと思うんですが、この内容で商業誌はギリギリか、と思ったりもしますね。
多分、お好きな方は記憶に残る一冊になるんでしょうけど、私は「だからなんだったんだ?結局?」と身もふたもない事を読後に思ってしまった。
少年の繊細さ、青年になりきれぬ逡巡、蹉跌に共感できる人向き。
どこか70年代っぽいドラマ性もありますね。
90年代アフタヌーン誌ならではの異色作だと思います。