1998年初出 伊藤潤二
小学館スピリッツ怪奇コミックス 全3巻
伊藤潤二はどちらかと言えば短編作家ではないか、と私は思ってるんですが、そんな作者の長編唯一の成功例がこの作品ではないか、と。
「うずまき」をテーマに連作する、と言う形を取ったことも幸いしたのかもしれませんが、ちゃんとストーリーが出来事とともに推移していって、最後には収束していることにかなり驚かされましたね。
いやね、伊藤潤二って、どうして?とかなぜ?とかいちいち解き明かさない人だと思うんで。
そんなことより、奇抜な着想をどう転がして昏い余韻を残すか?ということの方に力点を置く。
それが作者を稀代のホラー漫画家として立脚せしめたオリジナリティでもあったわけですが。
今回は、そこに物語を編む、落としどころを用意する、ということを意識して織り込んだ印象。
で、それが田舎町で起こった地域的カタストロフを描く怪奇SFとしてきちんと成立してるんだから全く恐れ入る。
そもそもですね「うずまき」をネタに18話も連作する、って事自体がとんでもない無茶振りだと私は思うんですよ。
だって「うずまき」ですよ?
どう考えてもホラーの題材じゃない。
でも伊藤潤二はそれをやってしまうんです。
各話、一短編レベルのバラエティと精度でもって。
3話傷跡、6話巻髪、7話びっくり箱、8話ヒトマイマイ、9話黒い灯台、11話臍帯、13話鬼のいる長屋、あたりなんて、単独でホラー誌に発表されていたとしても全く遜色ないであろう高い完成度。
奇怪で薄気味悪いこと極まりない。
間違いなく並の漫画家にできることじゃありません。
とりあえず最終話、凄いところに着地してる、とだけ言っておきたいと思います。
ホラーが世界の形に裂け目を入れるとしたら、きっとこんな風なんだろう、と私は震えました。
短編作家としての凄みも堪能できる、と言う意味では作者の代表作、と言えるかもしれません。
ホラーのステージを従来の形から一段階ひとつ上に押し上げた大作でしょうね。