1969年初出 水野英子
中央公論社
おそらくロック漫画の嚆矢、草分けといっていい一作なのではないか、と思います。
作者はトキワ荘世代らしいですが、多分、日本の漫画文化草創期を支えたビッグネームなみなさんの誰一人としてこれは描けなかっただろうし、そもそもなにをやろうとしていたのか、ほとんどの漫画家は理解することすら叶わなかったのでは?と思いますね。
かほどに水野英子の海外のロックに対する造詣は深い。
ビートルズから始まった英国ロック勢が世界を席巻するのを脇目に、追いつけ追い越せと奮闘していたアメリカの新興バンドたちの苦闘を知ってなきゃこの物語は紡げない。
読んでて思い当たること数しれず。
それこそジャニス・ジョップリンのエピソードであったり、エアロスミスであったり。
作者がすごかったのは、それを、歌うことでしか生きていけないアロンという青年の物語として、漫画に落とし込んだこと。
誰がこの時代に、アメリカのミュージシャンの物語を少女誌でやろうと思うか?って話ですよ。
日本じゃグループサウンズがアイドル的人気を博して大流行してた頃ですから。
スパイダースやタイガースは知ってても、彼らが何に影響を受けてそうなったか?を少女誌の主要購読者層が詳しく知ってるとは到底思えないわけで。
冒険だった、と思いますね。
よくぞ最後まで連載を続けられたことだ、と思う。
こんなの、70年代の洋楽ロックに脳を溶かされたオッサンのヘヴィリスナーしかわかんないですよ。
で、逆説的に言えば、オッサンのヘヴィリスナーを取り込むだけのリアリティ、説得力がある、とも言えるわけで。
もうね、わかりすぎるほどわかる、というのが正直なところですね。
極論なのを承知で言えば、天才と祭り上げられるミュージシャンなんてほとんどが紙一重ですから。
バンドマンの奇行をわざわざここで取り上げるまでもなく、幾度となく我々は彼らに驚かされ、喜びと失望を繰り返してきた。
ぶっ壊れてなきゃできねえよ、みたいなところもあると思うんですよね、バンドマンって。
そこを作者は「見てきたのか?!」ってレベルで誌面に叩きつけていく。
もちろん50年前の漫画ですから時代故の拙さはありますし、少女漫画ならではの絵柄に拒否反応がでる人もいるでしょう。
つっこみどころがないとは到底言えない。
けど、不出来を上回る情念というか、吹きこぼれるような熱さがこの作品には渦巻いてて。
フラワームーブメントに揺れる世相を背景に、主人公アロンがたどる顛末も今となっては諦観でもって納得。
ロックという魔物の制御不能さ、人気商売であることに振り回されざるを得ないのミュージシャンの不器用さ、懊悩を、強い思い入れでもって描いた試金石たる大作だと思います。
今の若い人がこの漫画を読んでどこまで理解できるのか、見当もつかないですが、古いロックファンなら一読の価値あり、じゃないでしょうか。
ロックが世界を変えるかもしれない、と本気で考えられていた時代の、熱すぎる残滓を再体験できる一作だと思いますね。