イタリア 2017
監督 マネッティ・ブラザーズ
脚本 ミケランジェロ・ラ・ネーヴェ、マネッティ・ブラザーズ

いきなり葬儀のシーンで幕開け。
うやうやしく運ばれる棺桶、悲痛な表情を浮かべる親族、教会から火葬場へ向かう車へと棺が運ばれようとする中、場面が切り替わってカメラは遺体を映し出す。
次の瞬間、唐突に目を開けた遺体はあろうことか大声で歌い出す。
「 ♪ヴィンチェンツォ って誰だ!!」
いやもう、度肝を抜かれましたね。
なんなんだこの映画は!?と。
全く予備知識なしで見たんで、余計にそう思ったのかもしれませんが、仮にミュージカル仕立てだと知っていたにしても、冒頭で遺体が情感たっぷりに歌い出すなんて予想すらしてなかったでしょう。
オープニングのインパクトとしちゃあこれ以上ないぐらい上出来。
俄然引き込まれたのは間違いありません。
ただね、以前にも書いたんですけど、私はどっちかというとミュージカル苦手なんですよね。
気恥ずかしいというか、こそばゆくなってくるというか。
自分たちの世界にどっぷり浸るのは勝手だけど、それを押し付けないでくれ、とどうしても思っちゃう。
唯一の例外がリトルショップ・オブ・ホラーズ(1986)でして。
要は「突然の歌」も、笑って許せるか、なんです、私の場合。
真面目にやってもらっちゃあ困るんです。
真面目にやりたいならミュージシャンとしてステージに立ってくださいと。
で、この作品なんですが、そんな私の忌避感を巧みにかわす演出で歌とダンスを随時導入してくるんですよね。
つまりは「どこまで真面目なのかよくわからん」という。
これ、どこかね、リザとキツネと恋する死者たち(2014)に似た部分もあるかもしれない。
すごく真剣に取り組んでるんだけど、クソ真面目じゃないんですね。
隙きあらば笑わせてやろうと手ぐすねひいてる感じが充満してるというか。
それは作品内容にも共通してて。
コメディなのか?と思わせておいて、クライムサスペンス調でもあり、バイオレンスな描写にも余念がないという闇鍋状態。
挙げ句にはトゥルー・ロマンス(1993)かよ!と言いたくなるような、愛に殉ずる殺し屋と女の逃避行へと物語は舵を切るときた。
まーどこまでもエンターティメントというか、ふざけてるというか。
とりあえずこのシナリオで、ミュージカル映画にしようとする発想がとんでもないです。
普通は二の足踏みますよ、スベるんじゃないか・・という恐怖のほうが勝って。
それをこれでもかとばかり、たっぷり2時間やっちゃうんだもんなあ、いやはや恐れ入りました。
個人的にはね、もう少しシリアスな場面を印象づける「落差の演出」があっても良かったんじゃないか?なんとなく流れにまかせてドタバタと終わっちゃったんじゃないか?といった不満も少なからずあるんですが、異形のミュージカルを成立させんとする謎の突進力に細かいことはすべて吹き飛ばされちゃう感じですね。
登場人物たちのぶっ飛んだキャラも秀逸。
エロいんだか頭が切れるんだかよくわからないクラウディア・ジュリアーニは強烈な存在感でしたね。
あと、あんまり歌が上手じゃない役者にはラップ調の楽曲をあてがう工夫なんかも感心しました。
圧巻だったのはセレーナ・ロッシ。
プロ並みの歌唱力でびっくりした。
調べたらミュージカル俳優だった。
さもありなん。
ま、大傑作というわけではないと思います。
けれど、映画の楽しさって、こういうことだよなあ、と思わずうなずいちゃう一作でしたね。
私が見れる、数少ないミュージカル映画のうちの一本にカウントされたことは確かです。