アメリカ 2017
監督、脚本 トレイ・エドワード・シュルツ

オープニング早々、意識が混濁した様子の老人を、ガスマスクの二人が野外に運び出し、射殺の上、火葬するシーンで映画は幕を開ける。
どうやら老人は身内のよう。
「すまない」とつぶやく壮年の男、受け入れられない様子の女と少年。
それでもこうする他、選択の余地はないのだとばかり、男は少年にあえて作業を手伝わせようとする。
そこには「次に何かあったときは、お前がこの役目を引き受けなくてはならないんだ」とする男の強い意向がある。
一体何が起こっているのか、まったくわかりません。
あえて一切の説明もなされない。
なんとなく想像できるのは、どうやら世界は謎の感染症に襲われているらしい、ってこと。
感染症がどういうものであるのか、また、どういう経路をたどって感染するものであるのか、全ては不明。
物語は家族とともに山小屋にこもり、ひっそりと息を殺して暮らす3人の日常を焦燥感と怯えで彩りながら暗い色調で進んでいきます。
とにかく徹底して「状況説明のみ」でストーリーが進んでいくものだから、背景が全く透けて見えず、見るものすべてが薄気味悪くて仕方がない。
何が起こってもおかしくないし、どう転んでも違和感のない余白だらけ。
そこは監督も心得たもので。
外へつながる真っ赤に塗られた扉をやたら意味ありげにクローズアップしてみたり、謎の来訪者をキーパーソンであるかのように演出してみたり。
「怖さ」を喚起する上で、実に巧みだったと思いますね。
描かれてるのはカタストロフを予感させる終焉の足音。
その断片を拾い上げてみただけ、といった突き放しっぷりが最後まで見る側に予断を許さない。
また、エンディングがどうにも救いなし、で。
もうこうなってしまった段階ですべては手遅れだったんだ、とでも言いたげなバッドエンドに、私は諦観にも似た絶望を見た気がしましたね。
あそこでぶった切ってエンドロールかよ!と軽く震撼したりもした。
で、なにかと賛否が分かれそうなのが、最後まで一切何が起こっているのか説明しなかったこと、でしょうね。
何があって、どういう経緯をたどって今この状況にあるのか、まるでわからないままおしまいなんですね。
これはずるい、という人もいるでしょうし、逃げてるという意見もあるでしょう。
けど私は、これはこれでありなんじゃないか、と思うんですよね。
こういうシナリオにしたことで超えられない壁は間違いなく存在したでしょうが、得体の知れない狂気であったり、恐怖を抽出する上で独自性の高い手段ではあったと思うんです。
2度はできないスタイルでしょうけどね。
少なくとも想像することがバイアスなしで怖さに直結した。
秀作だと思いますね。
ホラー、スリラー好きなら見て損はないんじゃないでしょうか。
なんだかぞわぞわしっぱなしなのは保証します。
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