監督、脚本 パスカル・ロジェ

その心意気は買いたい、と思う。
見ていて、ありきたりのものは作らない、という志はしっかり伝わってきましたし。
ただ、意気込みとは裏腹に、それがすべてうまくいってるとはいい難い、というのが正直なところでしょうか。
いわゆる、どんでん返し系、と言っていい作品だと思うのですが、やっぱり丸ごと全部ひっくり返すなら終盤に一気にやるべきだった、と私は思うんですね。
驚きの余韻が醒めやらぬうちにエンドロールを迎えてこそ、観客は我に返る時間を取り戻せぬまま茫然自失と相成るわけで。
一応、構造的には二重オチに近い、と言っていいと思うんですが、中盤における最初のひっくり返しからラストシーンに至るまでがやっぱり長すぎた。
間延びしてしまうんですよね。
そこはもう一度体勢を整える隙を見る側に与えるべきじゃなかった、と私は思う。
一息ついてしまうと、ついつい余計なところに目がいってしまったりするわけで。
前半と後半では物語の視点が変わってなきゃいけないはずなのに、その切り替えが上手にできてないとか。
主演のジェシカ・ビールの演技に影や狂信が見当たらなくて真実味がない、とか。
それも終盤、一気呵成に片付けてたらきっとアラも目立たなかったはずなのに、とどうしても思ってしまう。
「引き」が上手じゃなかった、ってことなのかもしれません。
さして必要のないカットが多い割には、肝心な炭鉱町の貧困の現状がきちんと描写されてないのもいささか疑問でしたし。
とはいえ、都市伝説か、それともスティーブン・キングか、ってな滑り出しから、ミステリをなぞらえるように驚きの着地点へと物語を誘導したシナリオはロジェならではのものだった、とは思います。
意表を突きすぎてて逆に呆れてしまう人も中にはいるかもしれませんが、ホラーの体裁を隠れ蓑にある種の社会派ドラマとでもいいたくなるようなエンディングへと急降下する映画なんて、そうそう他にはないことだけは間違いないでしょうね。
まず、どんでん返しありき、に囚われてしまったような気がしなくもありませんが、問題提起を孕みつつもどこか人間の善性を信じようとするラストシーンが私にとっては印象的でした。
前作マーターズを暗とするなら、実はこの作品は対となる明なのかも、と思ったり。
総合的に高く評価は出来ないまでも、やっぱりこの監督の作品は見逃せない、と思った1作ではありましたね。