フランス/エストニア/ベルギー 2012
監督 イルマル・ラーグ
脚本 イルマル・ラーグ、アニエス・フォーブル、リーズ・マシュブフ

ああ、これは若い人が見ても全く面白くないだろうなあ、とちょっと思った。
好き放題生きてきたわがままなマダムと、同郷の家政婦との心の交流を描いた作品なんですが、はっきり言って地味です。
特に劇的な展開や、涙にむせぶエンディングが待っているわけでもない。
なんだかすっきりしない、と言う人が結構な数で居るのでは、と私は推察。
でもね、このすっきりしない部分こそがハリウッドではまず最初にふるいにかけられる現実のやるせなさそのもの、だと私は思うんですね。
すっきりさせよう、と思えば簡単なんです。
アンヌにもっともらしい説教をされてマダムが改心、明るくなったマダムにはいつのまにか同年齢の恋人が出来てめでたしめでたし、が多分一番広く観客にアピールする内容でしょう。
でも、そんなことまずありえないわけです、現実には。
老人には老人の生き方があって、こだわりがあって、それを正論で覆せるぐらいなら老害なんて言葉は存在しないわけで。
私が唸らされたのは安易なハッピーエンドを選択せず、この作品が老いを真正面から描き、それをどうしようもないものととらえつつも、わずかばかりの救いをさりげなく用意してみせたこと。
マダムの生き方とアンヌの接し方、そこに産まれたかすかな接点を光明とした心優しさは袋小路を照らすほのかな暖かさとして私の心に染みました。
もうどうしたって手に入れられないものがある、どうあがいたってままならないことがあるのが老境なのだとしたら、せめて諦めをうけいれて手を差し伸べてくれる人とわかりあうことに小さな喜びを見出してみましょうよ、と作品は語りかけるんですね。
そこに背伸びも、映画だけの非現実もない。
すべてがどこかに、今もフランスで営まれているかもしれない日常なんです。
さらに私が興味深かったのは、登場人物たちの家族が誰一人として彼女達の手助けとして機能していないこと。
なんとも冷徹な目線です。
ですが、その冷徹さがあってこその、やりすぎなさ、なんだろうと思います。
物語の手綱を引き締める抑揚の利かせ方が本当に絶妙だと私は感じた。
アンヌを演じたライネ・マギをどこか品があって、しぐさのかわいらしい女性としてフィルムにおさめたセンスも素晴らしいの一言。
老いた女優さんであってすら美しく撮ろうとする熱意がある。
私自身、歳食っちゃったせいで過剰に感じ入ってしまってるのかもしれませんが、ヨーロッパならではの名画だと思いましたね。
今ぴんとこなくても、年齢を重ねればわかる、と強く言い含めたく思う次第。