サユリ

2010年初出 押切蓮介
幻冬舎バーズコミックス 全2巻

すべての著作を追っているわけではないんですが、おそらく作者の最高傑作と言っていい一作なのではと確信する次第。

いわゆるホーンテッド・ハウスものなんですが、この作品がすごかったのは、ホラーのセオリーどおり、転居してきた善良な一家が一人、また一人と変死を遂げていった「後の展開」につきる、と言っていいでしょうね。

断言しますが、後にも先にもこんな形で家に巣食う悪霊を退治した物語、ってどこにもないと思います。

完全に捨てキャラ、もしくはお荷物としか誰もが認識していなかったであろう、認知症を患う婆さんをキーパーソンとする着想もすごかったんですが、特筆すべきは霊的存在に対抗する手段として霊能者だとか祈祷師だとか、その手の不明確な存在、能力を一切介入させなかったこと。

もちろんそこに宗教もなければ儀式も存在しません。

では、主人公はどうしたか?

「相手を自分の土俵に引きずり込む」ことで解決の手段としたんですよね。

はっきり言って、こんなやり口があったか!と目からウロコ。

また、その手段が凄まじい上に、ロジックに妙な説得力まである、ときた。

呪い殺された事実を「やられ損」と言い切ってしまう反骨心にもしびれまくったんですが、その根底に「生き抜くことの哲学」が見え隠れしてるのにも恐れ入った。

1巻で震え上がらせておいて、2巻で壮絶なリベンジを成し遂げるという構成もお見事。

誰が幽霊屋敷物でカタルシスと静かな感動を得られるなんて予想できるというのか、という話ですよ。

パターン化、類型化して久しいホラーに楔を打ち込んだ一作でしょうね。

10年代、屈指の傑作ホラー、と言っていいんじゃないでしょうか。

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