2012年初出 桜井画門
講談社goodアフタヌーン 1~8巻(全17巻)

まあ、これも世相を反映してる、といえるのかもしれないですが「人に見えて人あらざるもの」を題材とした作品って、最近多いな、と。
東京喰種なんかもそうですしね。
本作「亜人」も含め、双方ともヒットしてる現状を鑑みるに「今、あたるネタ」なんでしょうね、きっと。
こういう作品の何が読者を惹きつけてるかって、沈思黙考するまでもなく「満たされぬ現実を打破することが叶わず、今こんなことをやってる自分は本当の自分じゃない」とストレス溜め込んでる若い人たちの共感に他ならないわけで。
代替欲求を満たしてるんでしょうね。
まあ、それはそれでいいんじゃないか、と思います。
それもまた漫画の役割でしょうし。
ただ、私のように、現状云々よりも親の介護や老後が心配な世代になってくるとですね、画力の高さや語り口の巧妙さ以前に、手垢なアイディアが炊合せ状態にあることの方がどうしても気になってくるもので。
曰く、亜人は不死身である。
なんかジョジョのスタンドみたいなのを出現させることが出来る。
実験動物扱いだったけど、軍人上がりの亜人が現れて対処する機関はおおわらわだ。
人間と亜人の立場が逆転するかも。
そんなとき、主人公の選択が戦局をひっくり返す。
もうね、鉄板の公式であり、おいしいところ取りであり、5手先、10手先が読めるシナリオライティングなんですよね、私にとっては。
いや、作者はものすごくがんばってる、とは思うんですよ。
1巻のみで降板した原作者のあとを引き継いで、後づけながらも矛盾や齟齬のないよう、もっともらしさに細心の注意を払って物語を膨らませてる、と私は感じましたし。
その力量は一流どころと比べても遜色ない。
戸崎と泉が過去に邂逅するまでを描いた一話なんて、あまりの出来栄えに本編が霞んで見えるほどでしたし。
やっぱり最初の設定でしょうね。
それが悪い意味で足枷になってる気がする。
この作品を楽しみにしている人たちを否定するものでは決してありませんが、本音を言うなら「亜人」はさっさと終わらせて、桜井画門にはゼロから新しい作品に取り組んでほしい、そんな風に思いました。
本物が描ける漫画家なのに、設定に振り回されてる、それが私のこの作品に対する率直な感想ですね。