羅喉伝

2002年初出 伊藤勢
角川書店ドラゴンコミックス 全2巻

近年読んだこの手のマンガの中では一番驚かされた作品。

よりによって角川からこんなド級の伝奇アクションがひっそり発売されていたなんて・・・。

マンガ道、あまりに広大にて険し。

実際のところコミックドラゴン(廃刊)やドラゴンエイジまでチェックしきれないわけで。

まだまだ知らずにスルーしてる傑作がたくさんあるんだろうなあ、と思うとなんだかいてもたってもいられない気分だ。 

で、本作。

私が最初に表紙から受けた印象は、多分またありがちなアニメ絵の荒唐無稽な冒険活劇で適当にエッチな露出もあっておそらくオタクなご機嫌伺いなんだろうなあ、だったんですが、これが実際読んでみるとびっくり仰天、あまたの似たようなことをやってる有象無象をぶっちぎりで引き離す怒濤のおもしろさでページをめくる手が止まらない。

確実に目線は現代のテイストを加味した、新たな山田風太郎忍法帳である。

おそらくね、みんなこういう風にやりたいと思ってるんだろうけど、誰もできてないんですよ、これが。

せがわまさきですらここまでやれてない。

江戸初期の堺を舞台に、賀茂葛城衆の土蜘蛛、崑崙仙族に徐福伝説、伊賀忍群が暗躍し、インドシナの小国アンガマンまで絡んでくる壮大な物語なんですが、なんといってもすごいのは、たった2巻程度の筋立ての背後に恐るべき容量の資料なり、裏設定が蠢動してることでしょうね。

その膨大さたるや初期の諸星大二郎並で、さらに伊藤勢が強烈なのは物語をアクションとして有機的に転がしていくために惜しげもなく取りそろえた魅力的な題材を次々置き去りにしていくところにある。

それが、まだまだとんでもない展開がこの先待ち受けてるんじゃないか、との期待を嫌が応にも煽るんですね。

まったくもって本作を編集方針の転換で第1部打ちきりにした富士見書房の編集は万死に値する。

これが最後まで描かれていたならマンガ史に残る傑作伝奇アクションとして名を馳せていたろうに。

ああ、もったいない。

魅力的なキャラクターの数々、表紙の印象とは違ってなんとなく山田章博ときくち正太が混ざったような作画も動と静の演出に効果的で実に良し。

続編の執筆を心から乞う。

未完ながら作者の頭の良さと漫画家としての才覚、センスが光る隠れた傑作でしょう、これ。

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