1980年初出 佐藤史生
小学館文庫 全3巻
恐竜の闊歩するどこか遠くの見知らぬ惑星を舞台に、中世封建的な社会を形成するアスカンタ王国と、その第一王子イリスを描いた異世界ファンタジー。
ある種の貴種流離譚とも言える内容かと思うんですが、これがもう尋常じゃなく面白い。
サイキック(幻視能力)とか絡んでくる展開や、権謀術策渦巻く政治と宗教の関係性等、当時のこの手の漫画にありがちな質感は有しているんですけど、なんだろ、常に読者の想像力を試そうとする語りかけがぎっちり詰まってるとでも言いますか。
密度が半端じゃないんですよね。
これって物語の文法ではなく、佐藤史生という類まれな漫画家の資質なんだと思うんですよ。
作家性がシナリオを追い越しちゃってる感じなんですよね。
人によってはこれを「難解」と捉える人もいるでしょう。
けどSFとは想像力の文学であるとするなら、このミステリアスな世界の作り込みはまさに「そのもの」なのであって。
ファンタジーの枠組みを軽く飛び越えちゃってるのは間違いないです。
いったいどこへ連れて行かれるんだ、と慌てること必定。
しかもこれだけの入り組んだ物語をたった3巻で終わらせてしまう蛮勇?がさらにとんでもないとしか言いようがなくて。
どこまで思い切りがいいんだよ、って。
もっと読ませてくれよ!と思った漫画なんてそうザラにあるものじゃない。
文句なし、傑作。
寡作の天才、佐藤史生の入門編たる一作じゃないでしょうか。