イギリス/カナダ 2005
監督 テリー・ギリアム
原作 ミッチ・カリン

ギリアムお得意のファンタジーか、待ってました、と相好を崩してると思わぬしっぺ返しをくらって眉をひそめずにはいられない異色作。
タイトルから想像できるように下敷きになっているのはアリス・イン・ワンダーランド、不思議の国のアリスなわけですが、同じ題材からインスパイアされたどの作品とも趣きを違えているのは確かですね。
まず、描かれているのは徹底して現実なんです。
主人公の少女の妄想としてファンタジックなシーンが織り込まれることはありますが、筋立てはリアルに悲惨。
ヤク中の両親にふりまわされる少女が、挙句に廃屋へ独りとり残されるところから物語は本格的にスタート。
もちろん食べるものはなにもありません。
周囲は枯れ野が広がるだけで助けてくれそうな人も見当たらない。
ようやく見つけた隣人は知的障害者と、過去の妄執にとりつかれた薄気味悪い片目の女の姉弟。
もうね、全然希望がないんですよ。
日本だったら行政はなにやってるんだよ、と言いたくなりそうですが、アメリカ、広すぎて話にならん、って感じで。
こういうことって、本当にあの国じゃああたりまえのように起こっていそうで背筋が薄ら寒くなってくる。
どんどん自らの妄想の世界にのめりこんでいく少女。
つまりこの作品は、観客にとってのファンタジーではなく、登場人物にとってのファンタジーなんですね。
それを外側から見つめる我々が何を感じるのか、がギリアムの意図した部分ではないでしょうか。
印象的なのはエンディング。
燃え盛る炎が照らす主人公の横顔は、私に少女特有の根深い狂気を感じさせました。
うまく説明できないんですが、とても怖い作品だ、と思いましたね。
ラストシーンの意味するものは救いなのか、それともディケンズのいう世界の破壊なのか。
私にとっては妙に印象に残る一作。
考えれば考えるほど深みにはまるタブーを掘り起こした怪作だと思います。