1973年初出 松本零士
講談社マガジンKC 全2巻

ほとんどの人が松本零士といえばおそらく999を代表作として挙げることと思われますが、実は私、本作こそが作者の最高傑作ではないか、と考えていたりします。
松本零士という漫画家を解析するにあたってその柱となるのは、男の生き様を頑迷に貫く「浪花節ファンタジー」と世間の理解を得られぬことから生ずる「怨念ペシミズム」だと私は思うんですね。
怨念ペシミズムが最も色濃く表れているのが作者の四畳半シリーズであり、浪花節ファンタジーが濃厚なのが999であり、ハーロックだと思うんです。
もちろんそれだけがすべてではありませんが、核となるこの両輪は多くの著作の中で、なぜか交わることがなかった。
別々のルートを行くもの、として描き分けられていたんですね。
それが初めて交錯し、ひとつの作品として成立した唯一の一編がこのワダチだったのではないか、と私は思う次第。
主人公は例によって冴えないメガネのアレ。
オープニングは完全に四畳半シリーズのノリなんですが、これがあれよあれよと宇宙へ行ってしまうんですね。
いわば男おいどんinスペースなわけですが、これがあなどれないシリアスさを兼ね備えた終末SFだったりするんです。
リアルタイムで読んでいた人は相当驚いたことだろう、と思います。
特筆すべきは、怨念をきっちり描ききった上で、ある種の答えを導き出し、なおかつ人類の行く末をSFの手法でもって壮大に語りかけていることだと思います。
若干の漫画ならではの荒唐無稽さがあり、ハーロック系のいかす登場人物は誰一人として出てこないというネックはあるんですが、作者の美点、特質が全て詰め込まれたとても豊穣な一作ではないか、と私は思います。
まだまだ続きそうなところで終わっているのが残念ですが、それでも興奮させられましたね。
永遠のモラトリアムだった男おいどんがSFの世界を舞台に、主役として行動するカタルシスはファンとしてはたまらないものがあります。
隠れた傑作だと思います。
アニメから松本零士に入った人は是非一度読んで欲しい、と思う作品ですね。
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