黒の獅士

1978年初出 永井豪
中央文庫 全3巻

戦国時代、伊賀百地の里に天才少年忍者としてうまれた獅子丸の激動の半生を描いたSFアクション時代劇。

あとがきで永井豪は自分なりの山田風太郎をやってみたかった、みたいな事を書いてますが、ああ、なるほど、と納得。

超人、奇人がありえない忍法の応酬でみたこともない戦術絵巻を繰り広げるのが風太郎忍法帳だとするなら、そこにSFをぶちこむ、というのはやり方として作者の資質に沿っているし、正しい、と思う。

時代劇でロボットの首が火を噴いて空を飛ぶ、なんて絵は当時永井豪にしかできなかった、と思いますし、そこからさらにスケールを広げて、宇宙規模の侵略者戦争にまでストーリーが及んだのはさすがの一言。

まさかこういう展開になるとは思ってなかった、というのはありました。

なんとなく石川賢の虚無戦記に通ずるものがあるなあ、なんて思ったりも。

ただですね、プロットの壮大さには感心させられるものの、それを支えるドラマ作りが若干弱い。

戦いのための戦いの描写だけで終始してしまった印象がどこかあるんです。

少なくとも獅子丸とお夕の惜別の物語はもう少し上手に最後まで引っ張ることができたのでは、と思います。

戦国時代の風景に庶民が全く出てこないのも少しひっかかりましたし。

戦国大名と忍者しか登場してこないんでね、どこかリアリティがないんです。

文化とか風俗に一切触れられることがないんで、絵空事を支える基盤となるものがいささか貧弱なんですね。

アイディアは良かったが、作り込みに欠ける、というのが正直な感想でしょうか。

色々惜しいな、と思う一作。

銅磨陣内なんて滅茶苦茶いいキャラなんですけどね。

SF時代劇の先鞭となった、という意味では評価されてしかるべきかもしれません。

コメント

  1. […] プロットの大枠は永井豪の黒の獅士に微妙に似てなくもないんです。 […]

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