ドイツ 2018
監督 クリスティアン・アルヴァルト
原作 セバスチャン・フィツェック
偶然司法解剖を引き受けた遺体の頭部から、自分の娘の名前と電話番号が記された紙片を発見する検視官の変事を描いたサイコサスペンス。
いやもう、序盤から「これでもか」とミステリファンを煽りまくる滑り出しです。
見ず知らずの遺体の頭部から娘の名前って・・・。
どうやってこんなの収拾つけるんだ、とマジで思う。
仕掛けた犯人の動機や事件の辻褄に納得いく説明ができるのか?と不安になるほど。
原作はドイツでベストセラーになったらしいんで、投げっぱなしで終わることはないだろうと思いはするものの、このぶっ飛んだ前フリには驚かされざるを得ない。
でまあ、多くの人が予想するとおり、娘は紙片が発見された段階ですでに行方不明、どこかに拉致されちゃってるんですけどね、居場所を特定するために次から次へと死体に隠された手がかりを探っていかなきゃならない、ってのがこの作品の独特な部分でして。
間違いなく主人公は連続殺人事件に巻き込まれているんだけど、犯人特定よりも犯人が死体に残したヒントを解き明かしていくことのほうが重要、という妙な猟奇色、ホラー臭があるんですね。
死人をまさぐりたおすことが解決につながるという物語の進行は、同系列の作品にも類を見ないグロさ、不気味さがあったように思います。
私はジェーン・ドウの解剖(2016)などというホラー映画を思い出したりなんかもした。
またシナリオが巧みだったのは、当事者である検視官がおいそれと足を運べない場所に死体を配置したりしたこと。
これが事件には無関係な協力者の手を借りるほかない状況を招き、予想外のもどかしさ及び同時進行の新たなドラマを生み出していったりする。
いやはや上手い。
そりゃ原作売れるわ、と納得の構成。
登場人物が多いのと、事件の真相が過去の出来事にまで及ぶんで後半は「えーと、誰だっけ?」と混乱しがちなのが玉に瑕ですが、多少わかんなくなっても充分見応えがあることは保証します。
まあ「犯人そこまでやるか?」とは思うんですよ、ぶっちゃけね。
でも大きく破綻せずまとめ上げた力量、中だるみすることなく随所でしっかり見せ場を作る堅実さの前では重箱の隅も気にならなくなる、ってなもの。
秀作だと思いますね。
ちなみに唯一私が気になったのは、序盤からの協力者である研修生の存在なんですが、これ、普通ならなにかあるだろ、その背後に、って思うわけですよ。
そういう演出だったじゃない、って。
えー結局どうだったのかは本編をご覧いただいて確認していただきたく存じます。
骨太なミステリです、おすすめですね。