日本 2006
監督 今敏
脚本 水上清資、今敏
DCミニと呼ばれる夢を共有する機器を巡る騒動を描いたSFアニメ。
公開当時に一度見て、今回再視聴なんですけど、2024年を迎えたおよそ20年後の現在ですら、未だにこの作品の評価が高いことに驚きですね。
ここまで伝説的な作品になるとは思ってなかったなあ。
つまらなかった、ってわけじゃないんですけどね、すごすぎる!と思った記憶もなかったもので。
むしろ今回見直してみて、少し過大に評価というか、当時の観客たちの思い出補正はいってないか?と思ったりした。
今敏という漫画家からアニメーションの監督へと作品発表の場を変え、そのどちらでも成功した傑物をくさすつもりはまったくないんだけど、この映画に限って言うなら、曖昧にしておかないほうがよい部分がちょっと多すぎるかも・・と思いましたね。
まず肝心要のDCミニって機器がよくわからなかったりする。
DCミニは精神を病んだ人のセラピーなんかにも使われてるらしいんですが、それって夢を共有するというよりは他者の深層意識にダイビングする、ってことなのでは?と思ったりするんですね。
小松左京や夢枕獏がその手のSF小説書いてますけど、それならわからなくはないんですよ。
けど「夢」ってなると、俄然、茫漠としてくる。
フロイトの夢診断じゃないんだから、ケレン味が増してくるというか、いやそれ妄想と違わないから・・というか。
作中ではややこしい単語を並べたててDCミニについて説明してましたが、正直言ってなんのことかさっぱりわかりません。
また、夢探偵を名乗るパプリカがなぜ実在の人物の別人格になってるのかもよくわからない。
さらに言うなら、夢のテロリストがDCミニを介していないのに他者をコントロールし、挙げ句は現実に侵食してくるからくりが全く理解できない。
エンディングなんてもっと意味不明。
あんなに苦戦してたのに、なんで急に優位にたてるわけ?って。
それができるなら最初からしろよ!って。
なんだかね、全部が全部ふわっとしてるんですよね。
図式は揺るぎなくSFエンターティメントなんですけど、そこにもっともらしさがまったくないというか。
大味でつっこみどころ満載だけど、スケールと派手さで全部うやむやにしてくるハリウッド大作と構造的に似てるな、と思いましたね。
扱ってる題材やネタはニッチですけど。
今敏はどちらかというと大人の観客向けなアニメを撮ってきた人だと思うんで、ひょっとすると今作に限っては何か期するところがあったのかも。
これまでのファンは裏切らないけど、さらに若い層も取り込んでみせる、みたいな。
結果的にそれが作品を浅薄に感じさせたが、後世の評価を鑑みるならそれこそが正解だった、ということなのかもしれません。
ま、私みたいな小うるさいファンはジャンルを停滞させるだけでしょうし、今となっては細かいことを気にせず、ただ楽しめばいいのかも。
映像は20年前と思えぬレベルで凝ってますしね。
個人的にはもっと混沌と、煙に巻く感じでも良かったかな、と思いますが。
一度、筒井康隆の原作を読んでみたいですね。
早逝の伝説的監督、今敏の高い力量を実感できる一作であることは確かでしょう。
めちゃくちゃ面白い!と思えるかどうかは別として。