上意討ち

1967 日本
監督 小林正樹
脚本 橋本忍

主君の命により、藩主お手付きの女を息子の妻にあてがわれた侍の、命がけの抵抗を描いた時代劇。

切腹(1962)があまりに面白かったんで、続けて掘り起こしてきた小林監督の時代劇ですが、これがまためっぽう面白くてほんとにこの人はすごいな、と感心することしきりですね。

原作が良く出来てることは間違いないです。

お殿様の都合で嫁すら押し付けられてしまう(しかもその数年後、再び召しあげるという非人間的所業を平然とやらかす)滅茶苦茶が普通にまかり通る武家社会の理不尽さに着目してるのがいいし、それに堪忍袋の尾が切れたのが、意外にも昼あんどんと目されていた嫁の義父だった、という設定もいい。

なんせ命がクソやすい時代ですからね、なんかあったら即切腹を命じられてしまう時代背景がありますから、ああ、ここまでのことをされても唯々諾々と従うしかないんだろうな・・・と思いきや、主人公の口をついて出た言葉が「いち(嫁の名)はすでに当家の嫁。断じて引き渡さぬ」ですから。

もう尋常なかっこよさじゃない。

しかもそれがおよそ20年間妻の尻に敷かれてきた、ほぼ養子扱いな影の薄い男の言質、ときてる。

惜しむらくはその豹変ぶりを強く印象付けるためにも、仔細な妻の反応や、落差のある演出を望みたかったところですが・・・・まあいい。

どこかね、格差が広がり続ける現代にも通底するものがあるんですよね。

我々は例え命を賭してでも、どうしても許せぬことは許せぬと声を上げるべきなのではないか?ってね。

最近は創作であってもここまでの反骨を目の当たりすることはあまりないですしね(安いファンタジー全盛で異世界へ転生しちゃう有り様ですし)。

古い時代劇ならではの醍醐味と言っていいかもしれない。

その後、職務に忠実な親友と、暴挙を許さぬ主人公がやむなく剣を交えることになる展開もよくできてる。

この手のやむにやまれぬ悲劇的対立って、よくあるパターンですけどね、クライマックスでこの絵を用意してくる物語構成って、のちの香港映画とかパクりまくってないか?と思ったり。

エンディングはおおむね予想通りで救いが無いんですけど(三船敏郎が圧巻の演技を披露してますが)、結局ね、いい人で正義感があってちゃんとした人ほど生き辛い現実がね、恐ろしく真実味があって。

カタルシスは得にくいかもしれませんが、これぞ小林時代劇と言いたくなる見どころ満載の一作でしたね。

切腹ほどの隙の無さはないんですが、それでも凡百の時代劇映画を遥かに飛び越えて傑作。

日本映画が本当にすごかった時代の、抑えておくべき一作ではないでしょうか。

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