イギリス/カナダ 2009
監督 テリー・ギリアム
脚本 テリー・ギリアム、チャールズ・マッケオン
12モンキーズ以降、なんだかぱっとしない印象があったギリアムが久しぶりにらしい作品を撮った、との感触でしたね。
もうケレン味たっぷり、というか。
ただまあ、序盤、とても現代劇とは思えない、というのはあったんです。
私は途中まで50~60年代のイギリスの話なのかな、と思ってた。
というのもパルナサス博士率いる旅芸人の一座の馬車がですね、とても現在に存在する、とは思えなかったから、なんですね。
また旅芸人の出し物の演出が恐ろしく古臭い。
この奇妙な違和感はいったいなんなのだろうと。
最後まで見ることでそれなりの解釈も成り立たなくはないんですが、いきなりギリアムの世界観に放り込まれる不親切さは幾分のとっつきにくさを産んでいるかもしれません。
最初からファンタジーだ、と言い聞かせて納得してしまえば気にならないのかもしれませんが、そこはもう少し上手に現実を地すべりさせて欲しかった、と思ったりも。
ひょっとしたら構想としてはもっと長い尺が必要な物語だったのかもしれませんね。
感心したのはこれまで以上に奔放な空想の広がりを実感できたこと。
物語を紡ぎ続ける寺院といい、パルナサス博士の頭の中の心象世界といい、そのイマジネーションの豊潤さはまさにギリアムの真骨頂。
決して若くはないだろうに、まだこんなにもアイディアがあるのか、と驚かされました。
ちゃんと毒があって皮肉がきいているのも二重丸。
残酷で手厳しい語り口を黒い笑いで包むやり口は私がファンになった往年のギリアムそのままで、喜ばしい限り。
ちょっとごちゃごちゃしすぎたかな、と言うのはあるんですけどね、強引ながらもちゃんとオチがついてるんでそこは気にしないことにします。
ちなみにヒースレンジャーの遺作、ということでも有名な1本ですが、それが作品に影を落としている、ということはありません。
彼が撮影に望めなかったシーンもつまずきを感じることなく許容範囲内でカバーできている、と私は感じました。
印象的だったのはトム・ウェイツ。
すっとぼけた悪魔を好演していて思わず含み笑い。
詳しくは知らないんですが、ファウストあたりも下敷きになっているのかもしれません。
どこか集大成的なシュールさ、いい意味でのでたらめさを味わえる快作ファンタジーでしょうね。
ファンは必見だと思います。