アメリカ 2008
監督、脚本 コートニー・ハント
プロットは秀逸だった、と思います。
それぞれに問題を抱えたシングルマザー2人が、貧困から抜け出すために不法入国の手助けを金で請け負うようになる序盤の展開は、先のストーリーがどう転んでいくのか、全く予測のつかない緊張感に溢れていた、といえるでしょう。
なんの後ろ盾も、頼れる人間もいない女たちが、明日の生活のために犯罪に手を染めてしまう危うさは、どう考えてもうまくいくはずがないと思えるだけに、続きを見ずにはいられない磁力を発していたように思います。
カナダとアメリカの国境の街を舞台とし、モホーク族保留地の自治事情を物語に絡めたのも巧みだった。
多くを語らずとも何が彼女達をここまで追い詰めているのか、わかる仕組みになってるんですね。
アメリカの抱える社会問題をさらりと浮き彫りにする手腕には新人とは思えぬベテランはだしなものを感じたりも。
それでいて、物語を導くのはあくまでサスペンスの様式に沿うものであるのが小気味よい。
きちんと人物が描けているのにも好感触。
2人の女は何を考え、なにを欲して行動しているのか、周りの人間は女たちのことをどう思っているのか、小さなエピソードをいくつも織り込んで実に丁寧にその人間像を練り上げてるんですね。
だから自然に感情移入してしてしまうし、共感してしまう。
正直、クライマックスに至るまでは、これは絶対傑作、と私はほぼ確信しておりました。
で、その確信が、あれ?と腰砕けになったのが、その肝心のクライマックスだったりもする。
いや、これはこれで多分いいんだろう、とは思うんです。
それなりに胸に迫るものもある。
何の問題もない。
ただですね、そういう場所に着地させるために、ここまで大風呂敷を広げたのか、という失望感は私の場合、少なからずあった。
どんでん返しがほしかったわけじゃないんですが、途中で銃撃戦まで挟んでですよ、このオチって、あまりにこじんまりしすぎてやしないか、と思うわけです。
その手の女同士のドラマを落とし所としたかったのなら、なにもここまで大仰なお膳立てを用意する必要はなかったんじゃないか、と。
要は物語のヴォリュームに見合うスケールがその顛末にない。
決してダメだという話ではないんですが、社会問題にまでアンテナを張り巡らせながらも、なぜエンディングが突然四畳半的なのか、と私はいいたいんですね。
好みの問題なのかもしれませんが、個人的にはなんともはがゆさを感じた1本。
重々しく悲痛であればいいってものでもないですけど、もう少し発想の飛躍が欲しかった、というのが正直なところでしょうか。