フランス/オーストリア/ドイツ/イタリア 2005
監督、脚本 ミヒャエル・ハネケ
カンヌで3部門を受賞した他、色んな映画評論家からも絶賛された本作ですが、うーん、これどうなんでしょうね。
ある日突然、主人公の自宅に謎のビデオテープが届き、なんだろう?と再生してみたら、自分の家の玄関を延々2時間ほど映しただけの内容だった、ってなオープニングはなかなか良かった、と思うんです。
意味がわからないからこそ不気味だというか、暗に「監視」をほのめかしてるのがどこか怖いというか。
徐々に行為はエスカレートしていき、ビデオテープの内容が主人公の少年時代の他愛のない嘘をあからさまにしていく展開も悪くない。
本人ですら忘れかけていたような小さな罪を、もはや壮年となった男に改めて問う物語なのか?これは、と興味をそそられないわけではなかった。
ただね、そこにたどり着くまでまでがあまりにも長いし、テンポが悪いんですよね、この映画。
音楽が一切ない、というのも影響してるのかもしれませんが、とにかくカメラワークが平面的で。
これは演劇的、といった方がいいのかもしれない。
全く奥行きの感じられない撮り方をするんですよね。
まあ、ヨーロッパの映画、ちょくちょくそういうタイプの作品ありますが。
さらにセリフもない、表情の演技があるとも思えないワンシーンを、同じ構図で延々長回ししたりもする。
寝オチさせたいのか、という話であって。
あの長回しが次のシーンへの布石となってるのだ等、反論はきっとあるんでしょうけど、私はね、そりゃケースにもよるだろうけどもっと他にやり方はいくらでもあるだろう、と考える派で。
少なくともこの作品においては編集が監督の意に素直に従いすぎ、と思えた。
詳しくは知りませんけどね。
いや、役者の演技もシナリオも優秀なんですよ。
そこは間違いない。
でもそれを映像として見せる上でどう表現するかという点において、おかしな執着があるように私は感じられたというか。
リバースショットをやたら多用するという、妙に古典的なことをやらかしてたりするのもよくわかりませんし。
ラストシーンもね、はっきり言って突き放しすぎ、ですよね。
あれを一回見ただけで犯人がわかった、って人は相当な集中力と研ぎ澄まさた鑑賞眼の持ち主だと思います。
謎解きを重視してないのか、わかる人にだけわかればいいと思ってるのか、どっちなんだか知りませんけど、まーカタルシスを得にくいことこの上ない。
で、私が一番ひっかかったのは、6歳の少年がしでかした子供ゆえの悪心を何十年もたってから責め立てる犯人のねじくれ曲がった精神構造でして。
そりゃ主人公も確かにろくな大人じゃないです。
背景に迫害されたアルジェリア人の政治的問題をはらんでるのもわかる。
けど人が死んでるわけじゃないんです。
みんなそれぞれに歳を重ねてるわけで。
なのに監督はそれを大いなる過ちであるかのように誇張して弾劾するんですよね。
子供ってのは誰しも大なり小なり嘘をつくもので。
嘘をつくことで嘘の罪深さを知っていくのが成長のプロセスであって。
それを責め立ててなにがどうなるというんだと。
むしろみんなが見たいのは、小さな嘘で運命を狂わされはしたが、それをあえて許して前を向こうとする人間の物語なんじゃないのか、と。
そんな姿を目の当たりにすることこそが主人公を最も戒める結果になるはずなんですよね。
つくづく監督はペシミストだと思います。
またそれを絶賛するカンヌの体質がほんとにもう・・。
絶望するのは勝手だが、それを押し付けるのは勘弁してくれ、といったところでしょうか。
私も決して性善性を信じる人間ではありませんが、一人いじけてるオッサンの手の込んだ内省に同調してやるほど悲観論者じゃない。
他にない作家性が顕著なのは認めますが、やっぱりハネケは私には合わない。
それを確信した1作でしたね。