アメリカ 2016
監督 フェデ・アルバレス
脚本 フェデ・アルバレス、ロド・サヤゲス
退役軍人である盲目のじいさんが1人で住む屋敷に「楽勝!」とばかり盗みに入ったら、じいさん思わぬ怪物で、強盗3人組、片っ端から返り討ち、ってなスリラー。
シナリオは非常にシンプルです。
冒頭の数行でもう全部伝えきったようなもの。
なのにこれがもう、見てて数瞬たりとも目が離せないばかりか掌にはじっとりと汗、ってぐらい緊迫感に満ちた内容でして。
で、何が凄かったのか、というとシンプルな脱出劇をどうスリルと恐怖で肉付けしていくか、その手際の鮮やかさにつきるといえるでしょうね。
なんせもう捕まったら終わりなんです。
さすがに元軍人だけあってじいさん、体術の冴えは素人の太刀打ちできるレベルじゃなし。
触れるや否やいきなり締め落としにかかってくる。
いやいや相手は目が見えないんだから離れてなにか獲物でぶん殴ればいいじゃない、と思うでしょ?
ところがそうは問屋がおろさない。
攻撃しようとするとどうしたって音が生じますよね。
ミシッ、と床板鳴らしでもしたらもうダメ。
ふいに踏み込まれて首絞められてあっという間に昇天。
しかもじいさん勘にまかせて拳銃乱射したりもしやがるんですよ。
もう、危なくて仕方がない。
まさに「命がけのかくれんぼ」そのもの。
もう脇目もふらずに主題に対して焦点を絞り込んでくるんですよね。
その手の、本来なら弱者であり庇護の対象であるはずの盲目というハンデキャップをあえて逆手にとって、あらぬ怪物に仕立て上げる一連のシークエンスはただただ見事の一言でしたね。
もうね、強盗団の心が早々に折れちゃってるのが如実に伝わってくるんです。
またそれを施錠された一軒家という密室でやらかしたのがなんとも巧い。
目が見えないというマイナスも慣れ親しんだ自宅においてはむしろ有利に働く、とするのにこれほど絶好のシチュエーションはない。
説得力が半端じゃないんです。
さらにはそんな最強の盲目老人をどうやって撃破するのか、という結末にもなかなか感心させられるものがあって。
これってある種のパラドックスなんですよね。
やられてみりゃあ、ああそりゃそうだな、なんで最後まで気づかなかったんだ!とこっちが恥かしくなってくるような手段なんですが、なんせ静かに隠れてなきゃならない、という思い込みがあるもんですからそこにまで発想が飛躍しない。
いや、飛躍させない上手なブラフのかまし方があった、と言うべきかも知れません。
手段を誘発したのが偶然にもある装置だった、ってのも、これまた味なことをやってくれる、って感じで。
選択を誤ったが故の悪夢な惨劇だったんだ、と最後に印象付ける役割を果たしてるんですよね。
ともかく設定とシチュエーションの勝利、それに尽きると思います。
格段深く心に残る物語があるわけじゃないんですが、これはこれでいいんじゃないかと。
あ、そうそうオープニングのインパクトも良。
なにが起こってるんだ?と観客を前のめりにさせるものがあり。
あれこれ小理屈抜きの快作、と私は評価したいですね。