2018年初出 芥見下々
集英社ジャンプコミックス 0~9巻(以降続刊)
藤本タツキの突出した才能に腰を抜かして「いかん、こりゃジャンプも無視できんぞ!」と悔い改め、集英社をガン無視してたここ数年の自分を反省して手に取った作品。
なるほどなあ、売れるのには理由があるわ、とは思いましたね。
ま、王道といえば王道です。
努力と友情、そして手にすることのできるVICTORY、もう何十年にも渡り連綿と続くジャンプ鉄板のパターンかと思うんですが、この作品が特徴的なのは決して子供目線でキャラクターを動かしてない点にある、と言っていいでしょうね。
斜に構えてる、ってほどではないんですけど「熱さ」が「クサくない」んですよね。
それぞれの登場人物がそれぞれの理由を抱えて戦場へと赴くんですが、そこに過度な煽りがない。
どこか大人びた、俯瞰する目線がある。
なので大人が読んでてもふいにしらけてしまうことがない。
幼い読者はもっと過剰に暑苦しい方がいいんじゃないか?と思ったりもするんですが、この微妙な温度加減が今のトレンド、ということなんでしょうか。
むしろ話題の怪獣8号(2020~)のほうが最近は汗臭すぎるぐらいで(私、脱落間近かもしれん)。
この調子なら、こりゃ20巻まで一気読みできるな、と思ったりした。
しかしあれだな、最近のバトルファンタジーは人が人あらざるものをその身に宿して超人化する、ってのが流行りなんですかね。
読者諸氏の、ある種の変身願望を叶えてるとは思うんですが、ちょっと類似作が多すぎるような気も。
ただ呪術廻戦の場合、主人公が両面宿儺という怪物をその身に宿しながらも、一向に両面宿儺が活躍しない、というおかしなパラドックスに陥ってて、それが逆に面白かったりはするんですけどね。
設定の肝を物語の主要な駆動輪にせずともここまで楽しめる、ってのがすごいといえばすごいんですが。
もう特にね、これが駄目だって思えるようなところはなかったりするんですが、あえて唯一の難点をあげるとするなら、呪術そのものに関するロジック、体系があいまいなことが少し引っかかったりもしなくはなくて。
気にならない人は気にならないんでしょうけど、やっぱりね、反転術式とか無下限とかアキレスと亀(五条悟ですね)まで持ち出してくるのなら、そもそもの呪術とはなんぞや?ってことを明確にしなくちゃいけないと思うんですよ。
そのためには「呪い」が生み出す「呪霊」の存在そのものにも言及する必要がある。
特級とか1級とか区分けされてますけど、なにをどうすれば人の呪いが漏瑚みたいな怪物を生むんだ?って話になってくるわけですよ。
頭が火山って、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪にだってそんなのおらんわ、と。
呪術は持って生まれた才能に大きく左右される、と物語では言及されてますが、学校が存在する以上、テキスト化可能な学問としての呪術が系統立ってなけりゃおかしいわけで。
そこを放置したままだと、結果、何でもありになっちゃうんですよね。
あれこれ応用することには熱心なんですけど、基礎が明示されてないんで「そういうものなのか?」といった感想しか抱くことができなくて。
日本には古来から陰陽道ってのがあったんだから、せめて陰陽道をベースに擬似科学みたいなものでいいから「呪い」の仕組みを解いてくれてたらね、さらに個人的評価は上がったか、と思うんですが、少年漫画にそこまで求めるのは酷すぎるか。
現状、呪術の名を関した超能力バトルに堕してしまうのは簡単だと思うんで、懸念材料があるとしたらそこですかね。
とか言いながら、0巻のクライマックスには涙腺やられそうになってしまった私だったりはするんですが。
これ、本編を食ってしまうんじゃねえか、と驚かされた。
まさかこんなところで「異形に沿いゆく献身」を見せつけられるとは思わなかった。
さて本編は0巻を超える事ができるのか。
まだまだ続きそうなんで、じっくり追ってみたい、と思います。
余談ですが、女性漫画家っぽい感性を私はこの作品から感じたりしたんですが、ほんとに男性なんですかね、芥見下々?