夜よる傍に

2013年初出 森泉岳士
エンターブレインビームコミックス

心因性の病で昼間は目が見えない少女と、不眠症に悩む青年の「一冊の絵本」を巡るファンタジー。

やはり特筆すべきは他に類を見ない独特の作画でしょうね。

wikiには「紙に水で線を書き、その上に墨を落とす」と記されてましたけど、そんなやり方でこうも流麗な線が描けるものなのか?と驚かされましたし、背景に至っては、なんだかもうある種、水墨画のようですらありまして。

作者の詳しい経歴は知りませんが、これをもし自分の感覚だけでやってるなら凄い才能だと思いますね。

やろうと思ってもこんな絵はなかなか描けないですよ。

アニメ絵に代表される昨今の様式化した作画と違って、ページをめくるたびに「はっ」と引き込まれる美しさがある。

どこか日本の漫画っぽくない質感があるのも個性的だと思います。

勝手な想像ですけど、この人は手塚治虫を通過してないんじゃないか?という気がしますね。

紡がれる物語も、ヨーロッパでひっそり作られた単館映画のようでね。

他愛ない、と言ってしまえばそれまでなんですけど、おとぎ話を地でいくような心優しさが強く琴線に触れちゃう人もきっといることでしょう。

とりあえず、わかる人だけわかりゃあいい、みたいな、全部「詩的」「幻想的」で誤魔化しのきく自家薬籠中の路線に舵を切らなかったことは好感が持てますね。

何作か、追ってみようと思います。

これでシナリオが強靭になればとんでもない作品を生み出しそう。

誰にも似ていない新世代の漫画家だと思いますね。

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