2012年発出 冨明仁
エンターブレインハルタコミックス 全7巻
いわゆる異世界ファンタジーなわけですが、昨今大流行の「異世界もの」とは若干舌触りが違うように思います。
いい意味で古典的というか、変にビデオゲーム(RPG)の影響を受けていないというか。
良く言うなら、ロード・オブ・ザ・リングのように壮大で、それこそ遡るなら源流は手塚治虫にまで至る気がしますね。
全然違うのはわかってるんですけど、私はどことなくリボンの騎士(1953~)を思い出したり。
しっかり者の侍従に囲まれたお転婆で奔放なお姫様、という構図がそう感じさせるのかもしれない。
何故か彼女は民の前で常に鉄仮面をかぶってる、という謎の設定もどこか懐かしさを感じたり。
前作であり初長編でもある、玲瓏館健在なりや(2010~)の時点で圧倒的に絵が上手かったし、キャラクター作りやドラマづくりも新人離れした達者さだったので、安心して読み進めていけるのは間違いないんですが、本作、実は一つだけ問題があって、それが「優れた作品なのにぱっとしないまま終わってしまった」要因になっているように思います。
私の勝手な想像なんですけどね、世界観や登場人物を綿密に練り上げた割にはこの作品「何も描きたいことがなかったのではないか?」という気がするんですね。
多民族との戦争に巻き込まれたりとか、色々事件は起こるんですけどね、結局、姫が何をどうしたいのか、最後まで見えてこないまま物語は中途半端に終ってしまうんです。
当たり前の正義感や義侠心は主人公らしく持ち合わせているんですけど、一国の王として、また一人の女性として、どう生きていきたいのか、何を成し遂げたいのか、なんの展望もないままなんですべてが行き当たりばったりに見えてしまうというか。
目的意識が欠落してるんで、そもそもの落とし所が不在なんです。
さすがにストーリー漫画でコンセプト及びテーマが見当たらないのはどうにもいただけない。
どうせなら王宮ラブコメにでもすりゃよかったんでしょうけど、変に世界を取り巻くドラマを意識してるところがあって。
一話完結形式で、姫とその仲間たちのにぎやかな日常を愉快に描くだけで充分だったと思うんですけど(多分作者が漠然とやりたかったのはそれ)外部から「それだけではちょっと・・・」みたいな進言でもあったのかなあ。
温故知新なプロットは悪くなかったと思うんですが、物語がどこへ向かうのかを最初に決めてなかったのが失敗でしょうね。
才能ある漫画家だと思うので、次作に期待。
あえてストーリー漫画をやらなくてもいい、と私は思うんですけど、さて新作アビスアジュールの罪人ではどんな塩梅なのか?
また機会があれば手に取ってみたい、とは思ってます。