2010年初出 熊倉隆敏
講談社アフタヌーンKC 全4巻

20世紀初頭の中華民国を舞台とした仙術バトルファンタジー。
前作もっけ(2000~09)と同様、相当な量の資料や文献を読み漁って連載に挑んだであろうことは数話読めばすぐにわかります。
信頼できる漫画家だ、と私は再認識。
この手の中華ファンタジーって、割と少年誌じゃありがちかと思うんですが、知識量の違いが凡百との差別化に貢献してるのは間違いないです。
生ける死人(僵屍) だとか、反魂だとか、オカルト好きには馴染みのある用語がたくさん出てくるんですが、どれひとつとして通俗的じゃないんですよね。
簡単に実像を具体化しないんです。
成り立ちがシステム化されていない術法である、という捉え方が、世界そのものを違う角度から再形成してる。
ありきたりに堕さない工夫は実を結んでるように思いましたね。
ただね、似たようなことは古代中国を舞台として諸星大二郎がもうやっちゃってるんですよね。
どうしたって比較されるのは避けられない。
その場合、作者の武器となるのは整った作画力と、キャラクターの立て方かと思うんですが、どうなんだろ、ちょっと健全すぎるかな、というのが私の率直な感想。
もう少し「怖さ」があっても良かったか、と思うんです。
特に妖仙である胡とか、菅とかもっと怪しげな方が多分盛り上がった。
なんだかね、藤子不二雄のキャラみたいなんですよね。
かわいくてどこか変、じゃあ駄目だろうと。
あと、主筋となる薛の蘇りのドラマがいささか弱い。
薛と宋の心の揺れ動きをもう少し掘り下げて描けなかったものか、と思うんです。
打ち切り宣告による限られたページ数での奮闘はよくわかるんですが、 これでは薛の人間性、しいてはその絶望の度合いが伝わりにくい。
この手の題材をキャッチーに料理できてしまう手腕は作者の大きな武器かと思うんですが、今回に限ってはそれがいささか裏目に出たような気もしますね。
前作より進化してる、と思いますし、こういった試みは大好物なんですが、アプローチの仕方が尺に見合わなかったか。
このまま埋もれてしまうことなく、さらなる活躍を期待したいところですが・・。