1981年初版 佐藤晴美
朝日ソノラマサンコミックス
<収録短編>
冷たい雨
凍った時の中に
乾いた瞑想
永遠のアニマ
ユキ
翼の記憶
作者のデビュー作を含む最初期の短編集。
動物漫画を得意とする漫画家として一部では知られた存在らしいんですが、私は全く知らなくて。
というのもこの人、おそろしく寡作なんですよね。
78年にデビューして以降、たった9冊しか単行本が発売されていない。
長編らしい長編も数冊しかなく、デビュー以降、主戦場としていたマンガ少年廃刊後、どの雑誌で主に活躍されていたのかもよくわからない。
動物漫画は飯森広一を最後に、ほぼ死滅してしまったジャンルですしねえ(高橋よしひろを別物とするなら)。
漫画家稼業を続けていくこと自体が至難の業だったのかもしれません。
今回、初めて単行本を手にとってみて、私が驚いたのはその画力の高さ。
もちろん漫画的なディフォルメはあるんですけど、毛の一本一本まで描き分けられた躍動感ある動物たちの姿に感心。
この時代、ここまで写実的な作画をする漫画家って、ほとんど居なかったんじゃないか、と思いますね。
当時、高い画力を誇っていた劇画派の人達はほとんど動物描きませんから。
そういう意味では希少な存在だったんじゃないか、と思います。
で、今改めて読んでみて、ちょっとしんどいな、と思うのは各話のストーリー。
自然と共に暮らすこと、自然を敬うことを、我々は今一度立ち止まって再認識すべきではないか、とした作劇は、正論ながらもどこか危うくて前時代的なんですよね。
ま、発表から40年近くが経過してるんで、時代の趨勢が反映されてないのもこりゃ仕方がない。
いかにも環境問題に敏感だった70年代的、と言えるのかもしれません。
あとは動物たちが人間さながらに会話を交わしてる短編がいくつかあるんですけど、これね、昔から私はついていけないんですよね。
そういうのはファンタジーでまとめて面倒みてください、と。
ディズニーとかさ、いっぱいあるんだし。
総合的な技量の高い漫画家だと思うんで、このまま歴史に埋もれてしまうのはもったいない、と思うんですが、なかなか再評価も難しいのが現状ではないかと思います。
いくつかSFも描いてるみたいなんで、機会があればそちらも読んでみたいですね。