ウォール 絶体絶命

レバノン/フランス 2019
監督、脚本 アフマド・ホセイン

ウォール 絶体絶命

DVDのジャケットを見てると、戦争を題材としたシチュエーション・スリラーっぽい印象を受けますが、これ、完全に「売らんがため」の罠なんでご注意を。

詐欺とまではいいませんけどね、この作品にエンターティメントを求めると間違いなく落胆してエンドロールを迎えることになるんで、煽り文句は一旦全部忘れて視聴に望んだほうがいい。

舞台は2006年のレバノン。

レバノンのシーア派武装組織ヒズボラとイスラエル国防軍の、対テロ戦争の巻き添えを食らった郊外の村で、一軒家に閉じこもる羽目になる男女5人を描いた物語。

なんで閉じこもることになったのか?というと、敵と思しき部隊が村にまで侵攻してきたから。

色んな事情があって、5人は逃げそびれちゃったんですよね。

敵軍が村から離れるまで、どうにも身動きとれない状態なわけです。

ただ無為に流れていく時間を、焦燥と緊張で描いたのがこの作品、といっていいでしょう。

そこに衝撃の展開や、命を賭したドラマティックなヒロイズムは存在しません。

物音に怯え、銃撃に身をすくめ、兵の影に慌てて頭を隠し、ひたすら右往左往する93分。

なんせなんの情報もないものだから。

どうするべきなのか、建設的な会話ができようはずもないし、状況を打開する策が見つかるはずもない。

リアルだといえばこれほどリアルな映画もないでしょうね。

どっちかといえば社会派のドラマ、と考えたほうがいいかもしれない。

ただね、それが「面白いのか?」というとなかなか厳しいものがあって。

基本、密室劇ですから。

ずっと室内を映してる状態で、興味をそそる会話劇も不在なまま、役者の演技と音と光だけの演出でずっと緊張感を維持するなんて至難の業なわけですよ。

そんなの全盛期のスピルバーグだって匙を投げる案件だ。

これはやばい、と頭では理解できても、どうしたって進行に単調さを感じてしまうんですよね。

敵兵の姿を全く映さず、すべては室内の当事者目線にこだわったのも難易度を上げてしまった要因。

恐怖を増長するためには、その恐怖の対象となるものを取っ掛かりとして膨らませていくしかないんであって。

窓越しに銃殺される村人とか、爆撃で吹っ飛ぶ隣家とか、ほんのワンシーンでもあれば全然違ったと思うんですけど、一切なしですしね。

戦時下におけるルールもよくわからない。

これは私が浅学であるがゆえの疑問なのかもしれませんが、投降しちゃだめなの?とシンプルに思うんですよね。

民間人も無差別に殺しちゃう戦争なのか?と。

だってね、登場人物のうちの2人は老人なんですよ。

しかも劇中で、一度は敵兵にその姿を確認され、見逃されてるっぽい描写がある。

つまるところ「殺されてしまうかもしれない恐怖」に観客を集中させてくれないんですよね。

ま、ヨーロッパでは高い評価を受けた作品ですんで。

おそらく、実際のレバノンを知る人達にとってはひりつくほど現実的で、ああ、たしかにこんな風だった、と過去の記憶を蘇らせる一作なんでしょう。

しかしそれが他国の人間にも切実に伝わるか、というと相当難しいような気がしますね。

戦時下に生きることの大変さはよくわかったんですが、それ以上の何かを汲み取るには制作側及び私、双方に不行き届きがある、そんな風に感じた一作でしたね。

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