日本/フランス 2019
監督、脚本 是枝裕和
国民的大女優とその娘の確執を描いた家族ドラマ。
しかしまあ、よくぞこの内容でカトリーヌ・ドヌーヴをキャスティングできたことよなあ、と少なからず驚きました、私。
というのも、劇中の大女優ファビエンヌの大物ぶりが、現在のドヌーブの姿と重なるから、なんですけどね。
口さがない連中は、きっと騒ぎ出すと思うんですよ。
「これって、ドヌーブ本人の実話に近いんじゃねえの?」みたいな。
ファビエンヌ、決して好人物として描かれてません。
どっちかというとキャリアを鼻にかけ、業界の若手をこき下ろす嫌な婆さんだ。
家庭をも省みずに女優業に打ち込んだせいで旦那は次々と逃げ出し、唯一の娘に親らしいことをしてやったこともない。
「一緒に仕事をするのはなかなか大変」と評判なドヌーブですから、ついつい想像を膨らませてしまいがちですよね。
どこまでが本当なんだ?みたいな。
実際は完全な創作らしいんですけど、ま、巧妙ですよね、観客の好奇心を煽るのが。
またこれを日本人の監督が撮った、というのが興味深い。
普通、こういう映画って母国フランスの監督が挑戦しそうなものですけど、どうなんだろ、むしろ外国人だからこそ気後れせずにやれた部分もあるんですかね。
私は是枝監督の映画って、万引き家族(2018)ぐらいしか見たことないんですけど、初の海外制作作品だからといって遠慮してるような部分は一切感じられなかったのは確か。
むしろ日本映画っぽい、と逆に思ったりもした。
で、肝心の物語なんですが、思ってた以上に無難な路線だったことに少し驚いたり。
なんせ万引き家族がアレでしたから。
もう、ずうううーん、と重いのかな、嫌な結末が待ってるのかな、と覚悟してたんですが、ほのかに感動的、ときた。
ええっ、こういうのも撮れるの?みたいな。
是枝監督に詳しい方のレビューとか読んでると、初期はこういう作品が多かったらしいので、決して変節したわけでも意外なわけでもないんでしょうけど新参者にとってはなんだか新鮮に映りましたね。
タイトルの「真実」からイメージするものって、私の場合、とんでもなくスキャンダラスなオチとか仰天の展開だったりしたものですから。
むしろ大団円じゃん、これ!って。
それを「ありきたり」と捉えるか、「心優しい」と捉えるかは見る人次第。
ちなみに私は劇中劇である「母の記憶に」の進行のほうがやたらと気にかかったり。
老いていく子供と、年をとらない母って、SFならではの心理劇じゃん!と興奮。
ドヌープがいい演技するんですよ、これがまた。
もちろん劇中劇が、物語の合わせ鏡となっていることは言うまでもありません。
「母の記憶に」を演じることがファビエンヌの内面に変化をもたらし、母と娘の関係性を帰結させたことは火を見るより明らか。
うまいなあ、と素直に思いますね。
きちんと全部の場面がつながってる。
終わってみれば予定調和な印象もなくはない一作ですが、最後まで「普通に面白い」ことに私は感心しました。
決して突飛なことをやってるわけでも斬新なわけでもないのに退屈しない、というのは監督の力量に他ならない、と思います。
良作、私は好きですね。
余談ですがドヌーブはこの映画の仕上がりがかなりお気に入りだったようで。
ファビエンヌなのになあ。
さすがはフランスの大女優、懐が広い。