裏窓

アメリカ 1954
監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 コーネル・ウールリッチ

裏窓

偶然知り得た隣アパート住人の不可解な行動に、殺人事件を疑う主人公の焦燥と困惑を追ったサスペンス。

さて、主人公のジェフですが、事故で左足を骨折しており、自宅から動くことが出来ません。

唯一の気晴らしは、自宅の窓から向かいのアパートに暮らす人達の様子を眺めることだけ。

そんなある日、向かいのセールスマンとおぼしき男の妻が姿を消す。

病気なのか、体が弱いのか、はっきりとはわからないんですが、ベッドからほぼ離れることのない男の妻が急に居なくなったことに主人公は疑念を抱きます。

一夜のうちに姿を消す、なんてことがありうるのだろうか?と。

セールスマンの男の普段とは違う不審な行動が、主人公の疑惑をさらにつのらせます。

これはひょっとして殺人事件なのではないか・・・?というのが物語のあらまし。

まあしかし、とんでもなくうまいな、と舌を巻きましたね、私は。

だってね、絵的には主人公の暮らす部屋と向かいのアパートの様子しかカメラは映し出さないわけですよ。

密室劇に近い地味さ、単調さに囚われてもおかしくはない。

なのにあなた、どうしたことだこれは?!というぐらい退屈しないし、全編緊張感に満ちてるんですよね。

ジェフとその恋人リザのどこかすれ違い気味なやりとりを軽妙に演出してるのも効果的だったかとは思うんですが、なにかが起こってることを観客に確信させるミステリ仕立てな進行がなんともよくできてまして。

とりあえず、不自由さの演出が実にお上手。

主人公、自分じゃ何も出来ないわけですよ。

なんせ動けないから。

できるのは状況から推理を組み立てていくことだけ。

とにかく協力者が必要なんです。

なのに周りは徹底的に無理解なんですね。

リザは隣のことよりも二人の将来のことのほうが大切だし、友人の刑事は素人探偵に苦笑いであまり真剣にとりあってくれない。

そうこうしていている間にもセールスマンの男は着々と証拠隠滅、逃亡の準備を進めていく。

まーやきもきします。

真相はわかりません、わからないんだけれども、このまま放置すると絶対にあとあと寝覚めが悪い、とひどく共感させられるものがあるんですね。

どうにかならんのかよ!と画面に釘付け。

やがて物語が動き出す、中盤以降の展開も実にスリリングで。

ようやく得た協力者も必要以上に無鉄砲でかえって主人公を大慌てさせたりする。

迎えたクライマックスなんて、スリラー並に大慌てですよ。

あかーん、対抗するすべがないっ!と手のひらには汗がじっとり。

結局いくつか明かされない謎が最後まで残るんですけどね、半径数メートル以内での出来事をここまで臨場感たっぷりに描いてくれたら文句なしですね。

というか、謎は謎のまま「含み」というか「想像の余地」でもういい、と私は思う。

名作の看板に偽りなし。

とても65年近く昔の映画だとは思えません。

構成といい、シナリオといい、主人公の目線にこだわったカメラワークといい完璧だと思いますね。

また、こういう映画に看護婦のばあさんみたいなキャラを放り込んでくるのもセンスがいいなあ、と思う。

小さな笑いというか、弛緩を演出するのにも余念がない。

サスペンスの神様ヒッチコックの凄みを堪能できる一作だと思います。

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