スペイン/アルゼンチン 2017
監督、脚本 パブロ・ソラルス
仕立てたスーツを渡すために、子供の頃からの友人を訪ねてアルゼンチンからポーランドへと一人旅する88歳のじいさんを描いたロードムービー。
なんせ88歳ですから。
そもそも一人で出かけること自体に不安があるし、途中でぽっくりいっちゃうんじゃないか?えっ?ひょっとして死出の旅?と嫌な予感しかつきまとわないわけですが、意外にも作品のタッチはそれほど暗鬱なわけでも悲惨なわけでもない。
じいさん、足が悪くて医者からは手術を進められてたりもするんですが、年齢や身体の不調もなんのその、持ち前のバイタリティでサクサクと旅を進めていくんです。
どっちかというとコメディ風な側面もないわけじゃない。
まあとにかく弁がたつんですね。
ユーモアにとんだおしゃべりは、本人の性格的なものもさることながら、年の功だなあ、なんて思ったりもする。
似たような感じの映画でロング、ロングバケーション(2017)なんてのもありましたが、質感は全然違いますね。
ただまあ、背景に生々しいものがないわけじゃない。
じいさん、ホロコーストの生き残りなんです。
88歳になった今でも激しくドイツを憎んでる。
さらには妻に先立たれ、娘たちは愛想よさげに接しながらも、実家を売却してじいさんを老人ホームに入れようとしてる。
つまりは、心残りを成就すべく、すべてを清算するつもりでの「人生最後の旅」だったりもするんです。
見どころは旅の途中で出会う人たちとじいさんの一期一会な交流。
こんないい人ばっかりなはずがねえ!とひねくれた私は思ったりもするんですが、実の家族よりもある意味で親身になってくれる人たちとの小さなエピソードの数々は、素直に心温まるものばかりで。
肉親よりも他人が優しい、ってのが皮肉が効いてていい。
なにより、88歳だろうが信念があって、意固地に他者を拒絶せず、人生を楽しもうとする気持ちがあればいくらでも道は切り開かれる、と示唆してるのが勇気づけられます。
特に中盤でのドイツ人女性とのやりとりはなかなかのシリアスさで。
もう少しつっこんで会話を掘り下げてほしかった、と思ったりはするんですが、今を生きるドイツ人と戦争の傷跡が癒やされぬ老人のやり取りは、ヨーロッパに生きる人達の埋めきれぬ感情の溝を如実に表現していたように思います。
エンディングはある意味で予定調和。
そりゃここまできて空振りとかありえないから、とみんな思ってたことでしょう。
でもやっぱり感動的。
わかっちゃいたけど涙腺が緩む。
なんせ70年越しですんでね、そりゃ重みが違ってくる。
さてじいさんは無事に知己を見つけることができたのか?
小憎い演出あり、とだけ書いておきましょう。
93分の小品ですけどね、各国の映画祭で観客賞を総なめにしたというのが納得できますね。
とりあえず、手紙は憶えている(2015)みたいな感じに物語が転ばなくてよかった。
なんせホロコーストなんで、ちょっと怖かったんだよ、私は。
秀作だと思います。
こんな年寄りになりたいなあ、と思いましたね。